第80話 敵輸送船団、見ゆ


 昭和17年10月13日 ガダルカナル島


 帝国陸軍第2師団は13日の海軍のヘンダーソン飛行場攻撃隊の艦砲射撃を受けて、高速輸送船でガダルカナル島北部に向かう。


 その船団の上をラバウルから航空支援を行う海軍航空隊が行く。

 ヘンダーソン飛行場に対する空爆を行い海兵隊の残存施設を破壊する目的である。


 川口支隊はヘンダーソン飛行場の南方、背後のジャングルから攻撃する計画であった。

 このヘンダーソン飛行場奪還作戦は現地指揮官の現地指揮官の川口清健かわぐち きよたけ少将と、現地で指揮をとる陸軍参謀本部の辻政信中佐との対立があった。

 猖獗しょうけつを極めるジャングルの山岳では重砲、機関銃を携行して戦闘を行うことは困難であり、機関銃や榴弾砲で武装された堅固なアメリカ海兵隊陣地を攻略するのは困難であると、川口少将は参謀本部に具申をしていた。

 しかし参謀本部の辻政信はこの現場を省みない作戦を強行し、それに対する川口少将との反発により、辻政信は川口少将を罷免を試みていたという。


 川口少将はラバウルからの航空隊によるアメリカ海兵隊のヘンダーソン飛行場基地の状況を知る。

 以前と比較して遥かに兵力が増強されていることを知った。



 第2師団を載せた高速輸送船6隻は第四水雷戦隊(旗艦、駆逐艦「秋月」)の護衛下でガダルカナル島沖に投錨、停泊し、兵員の上陸を開始する。

 高速輸送船6隻の兵員は無事上陸させたが、搭載した兵器、食料の揚陸を開始を始めたころに、ヘンダーソン飛行場に残存し残されていた戦闘機用飛行場から離陸して戦闘機による貨物船の攻撃が始まった。この攻撃で輸送船3隻(笹子丸、九州丸、吾妻山丸)を喪失。

 揚陸した物資もアメリカ軍の空襲で被害を受け、輸送船団の待避を決定する。


 第2師団は食料や重砲、戦車などの物資のないまま、ガダルカナル島に上陸した。


 10月14日に第八艦隊の重巡2隻(鳥海、衣笠)、10月15日に第五戦隊(妙高、摩耶)と第二水雷戦隊などが飛行場砲撃をおこなった。飛行場を維持するガ島のアメリカ海兵隊も苦しい状況が続いた。


 ◇◇◇


 10月15日 重巡洋艦 熊野 

 本、第三艦隊司令官の南雲忠一中将から索敵を実施する旨の通達が出された。

 旗艦の空母の電波探知機には敵のレーダーの電波を感知できてはいない。


 熊野の後部甲板に設置された、呉式二号五型射出機の上、デリックで零式水上偵察機が釣り上げられ、設置作業が行われている。


 田中菊松艦長は艦橋からその様子を見ていた。


 射出機カタパルトの上で偵察機のエンジンが始動する。

 搭乗員が艦橋に向かい、敬礼をし、答礼した。


「偵察機発艦準備宜し!」

 報告が届く。

 エンジンの轟音が甲板に響く。エンジン出力が上昇する


「発艦!」

 田中艦長の命令が下ると、射出機がブシュッ音を立てて、勢いよく水上偵察機を打ち出していった。


「水兵員整列!」

 勤務をしていない水兵が甲板に整列


「帽を振れ!」

 整列した水兵、艦橋の士官が熊野の上を旋回する偵察機に合図を送った。

 偵察機は翼を上下させて答礼し、指定の方角に飛んで行く。



 しばらくして、当艦、熊野の偵察機から敵艦隊発見の報告を受電する



 十月十五日午前「サンクリストバル」島ノ南東九〇浬附近ニ敵輸送船二、巡洋艦一、駆逐艦三隻出現セリ

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