第79話 偵察

 昭和17年10月11日 20時30頃 重巡洋艦熊野 艦橋


 ガダルカナル島方面に向かっていた輸送部隊から盛んに信号が入る。

 兵員、物資を輸送している水上機母艦(日進、千歳)ほかと、護衛する支援艦隊(青葉、、衣笠、古鷹)と駆逐艦隊が米艦隊と夜戦を行っている信号であった。


 アメリカも、海兵隊の増強のためガダルカナル島への物資輸送を行っていて遭遇した模様である。(サボ島沖海戦・アメリカではエスペランス沖海戦)


 近くに敵艦隊がウヨウヨいるはずだ。



 10月12日 ルンガ沖に軽巡洋艦1、駆逐艦7、大型輸送船2隻という航空隊の報告を受けた。


 この機動部隊の空母翔鶴には電波探信義でんぱたんしんぎ(アクティブ・レーダー)と電波探知機パッシブ・レーダー(敵のレーダー電波を探知する)が搭載されている。

 幸い、この艦は日米開戦以来、ほぼ無疵である(故障は多いが……)

 艦砲での訓練の練度は高い。

 熊野艦長の田中菊松たなかきくまつ大佐は訓練を命じこととした。


 山本(五十六司令官先輩)先輩は、空母対空母の航空戦が今後の海戦の中心となるであろう、と常に言っている。

 敵機襲来に対する対空戦に重きを置くべきだ。


「教練、対空戦闘用意!」

「教練、対空戦闘用意!」


 両舷の対空砲員が高角砲に訓練の配置を始める。

 田中艦長の手には懐中時計。

 教練開始の号令と同時に秒針を見つめる。



「教練、敵航空機発見。前方右30度 まっすぐにつっこんくる 距離 30マイル


「教練、対空戦闘用意、し」


「教練、目標まで10マイル


「教練、撃ち方はじめ!」


 懐中時計の釦を押した。

「もう少し、あと20秒だ・・」


 ◇◇◇


 13日朝、さらに悪い知らせが届く。

 巡洋艦古鷹、駆逐艦吹雪沈没、巡洋艦青葉大破の報を受電する。

 輸送船2隻、駆逐艦2隻からなるアメリカ艦隊と支援艦隊が同方面へ進行中との報である。



 第三艦隊(栗田健男司令官)のヘンダーソン飛行場攻撃の挺身隊が13日夕方、28ノットの高速でガダルカナル島へ進む。


 20時30分、総員戦闘配置完了

 23時00分、クルツ岬を右13度8kmに見て、艦隊進路130度に変針


 23時33分 ヘンダーソン飛行場上空に到達した、重巡洋艦の偵察機が目標を知らせる信号弾を投下

 23時37分 戦艦金剛と榛名の艦砲が火を吹いた


 ヘンダーソン飛行場のアメリカ海兵隊の上に戦艦の主砲弾が降り注いだ。

 基地を防護するアメリカ海兵隊の探照灯(サーチライト)が戦艦の艦影を発見し、反撃の砲を撃つものの、艦載砲の飛距離には遠く及ばず、艦隊の手前の海に落ちる。


 約1時間、約千発の砲弾がアメリカ海兵隊の上に降り注ぎ、航空機を破壊し、燃料タンクは炎上、滑走路に穴が空いた。

 アメリカ海兵隊現地司令官は「海兵隊が持ちこたえられるか不安である」とアメリカ太平洋艦隊ニミッツ提督に打電。


 ただ、この飛行場には戦闘機用の小さな滑走路が目標とは別に完成しており、この目標を破壊しておらず、後々に大きな影響を与えることになる。




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