南十字星の墓標

第78話 抜錨

昭和17年10月11日 大日本帝国委任統治領 トラック諸島(チューク諸島)


海軍泊地 重巡洋艦熊野 艦橋


 「航海当番配置に就け」

  田中菊松たなかきくまつ 熊野艦長の号令が復唱され、艦橋の士官により伝声管で伝えられた。


「出航用意!」

「出航用意」田中艦長の命令が復唱される


錨揚いかりげ!」

「錨揚げ」


 ガラガラと鎖が巻き上げられて鎖から海水がバシャバシャと落ちた。

 前衛の駆逐艦がすでに出航して前進していた。



錨宜いかりよし」報告が艦橋に届く。


両舷りょうげん前進微速」

両舷りょうげん前進微速!」


艦尾のプロペラが回る水流で後ろに波が起こり、ゆっくりと熊野は前進を始めた。近くに停泊している駆逐艦から手旗信号の合図が送られる


両舷りょうげん前進原速・赤黒なし」

両舷りょうげん前進原速・赤黒なし!」


「取舵15度」

「とーおりかーじ 15度」操舵手が操舵輪を回す


トラック泊地から出港した

青いエメラルドグリーンの環礁、空にはポツリポツリと雲が浮かんでいる


 ガダルカナル島北部に海軍設備隊によって建設された飛行場はアメリカ海兵隊に占領され、奪還のために一木清直いちきなおよし大佐が率いる部隊(市木支隊)が派遣されていたが、海軍によって設営された飛行場はアメリカ海兵隊によって、「ヘンダーソン飛行場」と名付けられ、多くの航空機が揚陸されて陸軍部隊は機銃掃射や爆撃の被害を受けていた。


一木支隊はイル川周辺の戦闘で全滅となっていた。

ガダルカナル周辺の熱帯雨林で重砲も運べず、小銃をもってアメリカ海兵隊の機関銃の陣地にはなすすべもなかった。


前衛の戦艦金剛、榛名、重巡洋艦愛宕はヘンダーソン飛行場に対し艦砲射撃を行いアメリカ海兵隊に主砲を雨アラレのように降らせて殲滅し、陸軍部隊の上陸を支援する。


田中艦長所属の第三艦隊(南雲忠一司令官)は、仏領ヌーベル・カレドニー(ニューカレドニア)附近にいるアメリカ空母艦隊をおびき出して、殲滅する作戦である。

この南雲機動部隊の対空防衛の要となるのは、重巡洋艦熊野の対空砲と駆逐艦隊の対空砲であった。


熊野は正規空母翔鶴、瑞鶴、瑞鳳の三隻の前に立ち、前方から飛来するアメリカ海軍航空隊に対して弾幕を張り防衛する。


それが田中菊松大佐の使命であった。


艦隊は輪形陣となり南方に向かって前進する。

旗艦翔鶴には電波探信儀でんぱたんしんぎ(レーダー)が搭載され、敵機をレーダーで捕捉することが可能となっていた。

ミッドウェーの教訓を踏まえ、燃料の防護なども対策が取られていた。


アメリカ海軍の行動できる正規空母は2隻


ガダルカナルのヘンダーソン飛行場を奪還する上陸部隊の輸送船も南下をしていた。

  

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