第70話 報復暗殺指令
日本陸軍幹部はソ連の対独政策を見誤っていた。またドイツの対ソ政策について十分把握していたとは考えられず、ソ連が日本に配置したスパイ網によって、すべて筒抜けになっていた模様である。
ソ連のスターリンは、後門において日本と国境紛争を抱えている状態は得策ではないと判断して、フランスとの接近を図り、ドイツを挟撃する仏ソ相互援助条約を1935年に締結していた。ドイツをフランスと挟み撃ちにする計画である。
1939年(昭和14年)4月にスターリンは駐独大使のメレカロフをドイツ外務省を訪させ、5月にはドイツと接近するためユダヤ人である外務人民委員マクシム・リトヴィノフを解任し、ヴャチェスラフ・モロトフを任命した。
ソ連は5月には英国と交渉を行っており、英国宰相ネヴィル・チェンバレン卿は「近くソ連と完全な合意に達しえる可能性がある」と演説
完全包囲される形となったドイツ・ヒトラー総統はリッペントロップ外相とシェレンブルグ駐ソ大使にソ連と交渉を行うように命令した。
ドイツがソ連と交渉を行うことは、駐独大島浩大使に伝達していたが、大島大使は激怒し、東京へこの内容を打電しなかった。陸軍親独派上層は知るよしもない。
ただ外務省はドイツのソ連への接近の動きは察知していたと思われた。
7月には平沼騏一郎内閣も情報を察知している。
日独防共協定は、徐々に加盟国は増やしていたものの、対英米関係との悪化を懸念する外務大臣有田八郎ら外務省官僚の抵抗によってほぼ骨抜きになっていた。
◇◇◇
昭和14年7月
有田八郎外務大臣は、天津で陸軍による英国租界封鎖問題(天津事件)について、駐日英国大使ロバート・クレイギー卿と会談を重ね7月22日は解決の好感触を得ていた。
しかし7月26日、アメリカから1911年に締結した米通商航海条約(小村寿太郎の名前をとって小村条約とも呼ぶ)の破棄の通告があった。英国租界封鎖に対して英米が協調していた。
8月上旬 日本石油本社 社長室
有田八郎外相は日本社長 橋本圭三郎社長と面談した
「とんでもない事態になった。日米米通商航海条約が6ヶ月後に失効すると、いずれ我が国のアメリカからの石油が途絶えることになる」
つづけて有田外相は橋本社長に言う
「板垣征四郎陸軍大臣は、陛下(昭和天皇)から『おまえはバカ(頭悪い)なんじゃないか!」※と激怒して叱責された。ソ蒙国境での勝手な越境爆撃、そして天津英国租界の封鎖を解決できていない。アメリカは日本の陸将は関東軍を制御不能と見なしている」
※ 陸軍の日独同盟推進派であり、長州閥の
橋本社長は答えた
「有田外相、アメリカからの石油が途絶えると、我が国はどうなるかわかりますか。経済は死にますよ」
有田外相は言う
「板垣陸相はまもなく辞任する、そして平沼内閣総辞職となる」
(当時は陸軍大臣が辞任した場合は内閣総辞職となった)
「次の内閣は?」
「さあ、組閣もままならないでしょう……暫定内閣の感は否めませんな」
「米内光政海軍大臣も、山本五十六次官も同時に辞任する意向を固めているそうだ」
「平沼騏一郎と対立していた
「小原君か…『長岡』と名が付けば、『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』目の敵にする長州閥が黙っていません。長州閥のドンの寺内寿一が必ずや横やりを入れてくる」
「陸軍長州閥は国難というものを理解できない大馬鹿モノだ」
◇◇◇
昭和14年 東京市芝区飯倉町 水交社ビル
山本五十六次官への暗殺未遂事件を重く見た海軍幹部は秘密の会合を持った。
官房調査課
末端の手先の逮捕より、最高幹部を暗殺する方針とした。
また、ソ連の対外政策の方針を決定づけたノモンハン事件でについて、関東軍の責任者は誰かと、現地の大橋熊雄大佐から報告を受け、『辻政信少佐に最大の責任あり』と判断した。
極秘 昭和14年7月○日
暗殺指令
3名 以下 速やかに「除去」する
・東条英機 統制派最高責任者
・寺内寿一 陸軍長州閥責任者、対独問題最高責任者
・辻政信 対ソ連国境問題事件最高責任者
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます