第68話 ノモンハンの904高地

 私(本間花音ほんまかのん)と宝剣乃亜ほうけんのあは「あやめ」さんから手紙を受け取った。

 あやめさんとタツさんは、「なんて書いてある?」と興味津々だ。


 どうせラブレターじゃないんだろうと思って、2人は開いてみた。


「お元気でしょうか」から始まって、自分は無事である、早く戦争に勝って日本に帰って中学教師(旧制中学校なので、現在高校教師)に復学したい。


 宝剣宛ての折笠巳之吉おりがさみのきちからは、もらった楽譜でハーモニカの練習をしている。聞いたことないメロディで難しいという話だ。


 2人とも東京高等師範学校といっていたが、私の通っていた高校の先生が筑波大学だった。お茶の水(女子大)は女子の先生で、筑波は昔は男子の先生と言っていたような記憶があったので、きっと東京高等師範学校は、私の高校教師の筑波大学のことかと思っている。


 2人の手紙には居る場所が炭で塗りつぶされて検閲済のハンコが押されていた。

 しかし、言外には、戦争が膠着状態に陥っていて、終わる見通しが見えない泥沼が見て取れた。


 宝剣の送った楽譜、未来の曲、back numberはどう感じているだろか。

 戦争を知らない世代の曲が響くのだろうか。


 宝剣は「平和な歌だね」とかいてあるので、きっと響いているのだろう。

 ほんの一瞬の送別会でしかあっていない2人だが次第に気になるようになっていった。


 川村スイの兄からは、まだ手紙は来ないと言っていた。

 満州はまだ安全だという話をしていて、この新潟港から戦地に向かったという話をしていた。


 彼女の家は貧しい小作農で、父も母もおらず兄が小作をしており、スイが奉公に出された。実家はもう人はおらず、兄が満期除隊になって帰ってくるのを待っていて新発田に小料理屋を開きたいと言っていた。

 新発田城にいる兵隊相手に商売するのだと。


「あやめ」こと川村スイが兄の戦死の報を受け取ったのは10月頃

 ノモンハンの9月4日の904高地でのソビエト軍との激しい戦闘で戦死したと。


 ノモンハンでは圧倒的なソビエト軍の機械化された戦車隊で数万の戦死者を出して敗北した。

 新発田歩兵第16聯隊は、904高地を占領しこの土地に16聯隊の名を刻んだ石を埋めた。

 川村の兄が戦死した地は、モンゴルとロシアの今日の国境線を画定する礎となり、無駄死にはならなかったが


 多くの日本兵の死は何も残さず、無謀な作戦は第二次大戦の引き金になったのである。

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