第63話 理研産業団
昭和14年5月頃
私(
村人があつまってきて、瞽女の石崎タツの唄に聞き入った。
何回か聞いているが、むかしながらの曲のほか、流行の唄も演奏するのだ。
令和から来た私たちには、ライブツアーのように感じた。
この時代に、このようなロックな生き方というものがあるのか。
お父さんたちから聞いていた1970年代や80年代に、アメリカなどで車に乗ってツアーに回った駆け出しのミュージシャンのよう。
江戸時代からこういう文化があったのか。昭和の終わりには旅をする瞽女はいなくなっていたと思う。
飯塚家、とてもとても大きなお屋敷で、ここも立派な庭がある。
小さな客間に通された。
そこでお茶と、すこしばかりの漬物を出されて待っていた。
宝剣は沢庵をポリポリとかじってお茶を飲んでいる。
すこしは遠慮すればと。
石崎タツは目が弱視であるが、聴覚はとてもすぐれている。
廊下を歩いてくる足音で「紳士がこられた」と話した。
新聞記者も同行していた。
「
と挨拶をした。
新聞記者は地元の新聞社の
私はその大河内先生がどんな方か存じなかった。小柳記者に聞いたら「リケンサンギョウダン」の創始者で大科学者だという。
柏崎に大きな工場を持っていて事業拡大のために視察、指示に来たという。
「本間君といったねぇ。君は新潟の警察署でゲンバクという特殊爆弾の話をしたそうだが」
「ゲンバクですか……とても威力のある爆弾で一発で町を焼け野原にする威力があるものです」
「それは火薬を使うものなのかね」
「いいえ、ウランなどの物質で核分裂反応で爆発するのです」
「うむ…………君の言っていることは、ウソじゃないな」
小柳記者が言う
「そんなことあるのですか」
「ああ、理論的は実現可能だが……それは何時、どこで」
「昭和20年8月に広島、長崎、新潟の順に落とされます」
「昭和20年……あと6年じゃないか。それはアメリカか?」
「そうです」
「でも、それをどうやって、飛行機で落とすのか」
「そうです、B29という大型で空高く飛ぶ爆撃機から投下されるのです」
大河内先生は頭を
「アメリカはあとたった6年で……我が国日本にはとっても無理だ」
小柳記者は先生に聞く
「どうしてですか」
「そのようなものを作るのに電力も必要だし、その電力を賄えるのは東京くらいしかない。それに部品製造やウランを濃縮するための設備も必要だ……田中土建の田中角榮君が兵隊に取られて、我々の工場を作るための腕のいい業者もいない……」
私は、
「いま、『田中角榮』とおっしゃられました?」
「そうだ、田中君はいま徴兵で満州に行っている。君は田中君を知っているのかね?たしかこの近くの
「二田村?」
「ああ、田中角榮って総理大臣だった人でしょ。ちょー有名じゃん」と宝剣が言う
「総理大臣!?」小柳記者と大河内先生は目を丸くする
「あの田中君が、未来の総理大臣?それは面白い、はははは」
※小柳胖 戦後、新潟日報社の社長となる。戦時中徴兵され硫黄島に派遣。守備隊は玉砕するが小柳胖記者は米軍の捕虜となる。
ハワイ島の捕虜収容所では、対日終戦工作の新聞の編集責任者になり、そのビラはB29で投下された。
昭和天皇は内閣情報部を通じて小柳胖記者が作成したビラからアメリカ政府の意図を把握しており、終戦に大きな役割を果たした。
昭和天皇は盧溝橋事件以降、昭和14年頃から、陸軍上層部を信用しておらず、別ルートから情報を得ていたと言われている。一説によると、その情報ルートは山本五十六次官が創設した内閣情報部だと言われている。
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