第60話 白兵戦

「突撃ーーーーィィィ!」


 私(宝剣信一ほうけんしんいち一等兵)は銃剣を抱えて、小隊の一群ととも一気に丘を駆け上がる。


 機関銃小隊は、軽機関銃を腰だめにして射撃し、突撃を図った。

 不意に攻撃してきた我らを見て、敵は驚き、マキシム機関銃を一発も撃つことなく、遺棄して撤退した。


 陣地確保


 しかし、この陣地の上にはここを攻撃するための陣地がある。

 敵は撤退後にすぐにここに銃弾、迫撃砲、榴弾を打ち込んでくるのは必至である。


「地形地物を利用せよ、蝟集いしゅうするな!」


 ※蝟とはハリネズミ、 蝟集とはハリネズミの針のように集まること


 案の定、迫撃砲弾が不気味なヒューという音を立てて飛来して、ドンと炸裂する

 バババババ・・・と機関銃音が鳴り響く


 敵はマキシム重機関銃の援護のもと、

 チャルメラを吹く。敵の突撃の合図だ。


 敵の逆襲が始まった。

 手榴弾を投擲する姿が見える。まだ距離がたりず、目の前に落ちてバンと炸裂する。


「擲弾筒!」

「ハイ!」と擲弾筒兵が応戦

 飛距離はこちらの方があるので、敵集団の中で炸裂する。

 近くの友軍は手榴弾を投擲して応戦


 やがて集団の距離が近づく。

 わが歩兵の集団は、白兵戦を決した。


 銃剣道で訓練を受けているが、相手も中国武術の訓練を受けている。

 ドスッと言う音、

 悲鳴、叫び声、パンと小銃を撃つ音、中国語の悲鳴

 この丘は修羅場と化す


 敵の小銃弾は第一分隊長、西方にしかた軍曹の急所に命中した

 そして指揮班の店橋みせはし一等兵の臀部に一発命中した


 敵は撤退、そして反撃を繰り返す

 敵兵と銃剣でつばぜり合いをしたときの敵兵の苦痛の顔が見える


 敵にい撤退の命令が下った様だ・・・

 衛生兵と叫ぶ声、銃弾を受けて転がり叫ぶ戦友・・・そして戦死した友


 死屍累々のこの丘


 戦死者、負傷者の銃、装具を拾う。

 担架の上で呻吟しんぎん(うめき苦しむこと)する戦友に「はやく軍医のとこに連れて行く辛抱しろ、頑張れ、死ぬな!」と激励する

 そして急峻な峠の坂道を登る。



 白兵戦を制したものの、虚しさだけが心に残った



 正午ごろ、迂回して攻略した第4中隊と合流した。

 澄みきった秋空の下、秋風が涼しい

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