第58話 荼毘

 私(折笠巳之吉おりがさみのきち)の小隊は南楼嶺なんろうれいを占領確保したが、多くの戦友を失った。


 彼らの遺体を丁寧に並べた。

 信州(長野県)の一等兵だろう。胸に善光寺のお守りをつけていた。荼毘だびにふして遺骨は残念ながら故国に送ることは、ここからでは困難である。


 小隊長はその善光寺のお守り、そして小判型に二一五と漢字で刻まれた認識票を外した。

 長野の両親の実家に直接伺い、そして仏前に手向けるという。


 敵兵の遺骸の数も多く埋葬するのは厳しい。荼毘にする薪炭しんたん(薪のこと)も足りない。

 丁寧に並べれば、支那の人たちが引き取って埋葬するだろうとそのままとした。


 部隊にいた僧侶が、袈裟ももっていたので丁寧にお経を読んだ。

 彼らはここで仏弟子となり、遠く旅たつ。

 そしてまた、靖国で護国の英霊となる。


 線香がなかったので、配給品の煙草を線香がわりとすることにした。

 小隊長が煙草をくわえて火をつけ、そして彼の遺骸にそなえた。


 足下に置かれた煙草から紫煙が上る。


 2千人はいただろう、聯隊から、また数人故国に帰っていった。

 聯隊には補充の兵がくるだろうが、我々は消耗品なのか。


 腹立たしさといい、なんてバカな戦争をやっているのだと怒りが湧いてきた。

 ここの支那人の土地だ。

 そして彼らにはアメリカ、イギリス、そしてドイツまで武器を売って支えている。

 我が国はまだ未熟な国産兵器で戦い、もう全世界を敵に回して、異国の地を荒らしている。

 支那人の農家の田畑を荒らし、家を壊し、こども達が学ぶ機会を奪っている。


 一刻も早く、この戦争を止めるべきだ。

 本国は何をやっているのか。


 参謀が勝手に戦争をして、政府のい言うことを聞いていない。


 バカな参謀、敵より怖い。まさにそのとおりだ。


 そしてまた、我が部隊に命令が下る


 この山岳に残存する敵兵を掃討せよと

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