第57話 天明

 私(折笠巳之吉おりがさみのきち)の小隊はなんとか、この敵の機関銃陣地を占領したものの、今度はこの陣地に対して敵の弾雨が降り注ぐ。

 壕に張り付き、敵の弾を除けるしかない。


 後続の小隊が四号無線機を持ってきた。援軍を要請する必要があるが、この壕の中では交信できない。

 小林通信兵が高地の壕に入り、通信線を接続する。

 通信兵が電波の届く位置にアンテナを掲げ、交信を試みた。


 そしてアンテナを掲げ、交信を始めた途端、敵の弾がアンテナを吹き飛ばす。

 クソ、なんて運の悪い……


 この細いアンテナに弾を当てるとは敵ながら見事

 交信不能になってしまった。


 我々は先ほどの渡河で濡れた軍服と、夜の寒さに震えながら、壕にタコツボにように身をすくめて天命を待った、


 敵は、獲物を狙うそぶりなく、ひたすら暗闇にの銃弾を撃ちまくっていた。


 天明、群青の空が、下にあかね色に明るくなってきたころ、援軍がきたようだ。

 鈴木中尉が率いる第4中隊が攻撃し、前進してきた。


 山砲隊は明るくなり、敵の陣地を捕捉


 南楼嶺なんろうれいに西方に、この我々の中隊に対して攻撃してくる敵が居る。

 暁はわれわれに味方した。


「撃て!」

 ドン、ドンと山砲隊が敵の攻撃陣地に対して砲弾を撃ち込む。


 敵の弾雨が止んだ。

 我々第三中隊は、この敵を掃討するため前進を試みる。


 第二小隊が前進したところ、熊谷くまがい小隊長の大腿部を貫通した……

 小隊長、負傷

 そしてまた一発、据え付けた軽機関銃の足に命中して折れてしまい、射撃不能となる。


「ちくしょう、やられたか」

「軽機、早く直せ!」

「いまやってます!」

 応急修理を終えて、再び射撃開始


 我々は小銃を敵陣に目がけ撃つ


「撃ち方止め、着剣!、前の陣地に突撃し、陣地を確保する。機関銃小隊、援護せよ!」


「いくぞ!」

 小銃を抱えて前の敵の陣地をめがけて突進した。

 背後からパパパパ……と軽機関銃の射撃が援護する。


 投擲した手榴弾が敵の機関銃の陣地に落ち、炸裂。

 慌てて逃げる敵兵


 そして滑り込むように敵の陣地に転がり込む


「機関銃小隊、前進!」


 続けて機関銃小隊が、軽機(機関銃)を抱えてこの陣地めがけて走ってくる。


 そしてこの陣地に機関銃小隊が入り、軽機を据え付け、敗走する敵に機関銃弾を浴びせた。


「南楼嶺の陣地、確保!」

「やったぞ!」


 あたりには敵兵の遺体が累々と横たわっている


 部隊は喝采につつまれていたが、

 私達はその敵兵の亡骸に敬礼を捧げた

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