第56話 照明弾

 私(折笠巳之吉おりがさみのきち一等兵)は思った。

「まずい……これでは完全に挟み撃ちだ……」


 パパパパパ……


 マキシム機関銃の砲声が轟く

 チェコのシュコダ機関銃の音も聞こえる


 深夜の暗闇を曳光弾がオレンジの光を放ち向かってくる。


 ここは谷間の道

 敵の陣地は両側に我々を見下ろす位置にある。

 手榴弾を投擲され炸裂する中、一気に走って一方の崖の方に張り付いた。


 反対側に回避しようと走る友軍兵。が、敵弾に撃たれて倒れていく。


 そしてまた、撃たれる戦友……


「衛生兵!」「衛生兵!」と呼ぶ声。


 敵の照明弾が打ち上げられて暗闇に花火のように光を放ち、そして落ちてくる。

 敵は容赦なく、重機関銃を撃ってくる。

 やっとのことで崖下にたどり着いた。


 真上に機関銃がある。銃口から火を放ち、凄まじい音が炸裂する。

 幸いにここは藪であって腹ばいになっていると、敵の手榴弾が近くに落ちて

 ドーンと炸裂した。


 この位置だと擲弾筒は撃てない。


 そして目の前に手榴弾が飛んできて、ドーンと腰を打たれるような衝撃を受けた。

 クソ、やられたか……いや水筒に穴があいて水が漏れている。

 これに救われたか。


 オレにも手榴弾はあったはずだ。

 敵の機関銃陣地に上手く投げ入れられれば


 あった!手榴弾

 ピンを抜いて鉄兜で叩いて無我夢中で敵の機関銃の中に投げ込んだ。


 ドン!


 機関銃の砲声が止んだ。

 小銃にはあらかじめ着剣してある。

 

「今だ!」


 一気によじ登って、機関銃座に滑り込むと、顔を血だるまになった敵兵がフラフラと立ち上がった。


 ドスッ……


 銃剣で突き刺す。

 次々と身方がこの銃座の滑り込んできて銃座を確保


 しかしこの機関銃座を奪取すると、まもなく、敵兵はこの陣地に手榴弾を投げこんできた。


 ドン!

 暗闇のなかで土煙があがり、あたりは何も見えない。


 照明弾に照らされて前の敵兵の姿が見えた

 敵兵の手榴弾は柄のついたもので両手に持っている。

 幸い相手は両手が塞がっている。


 槓桿こうかんを引き、弾を装填、カチャッと音がして、

 すぐに引き金に指がすべりこんだ。


 パーン!命中だ


 バタッと倒れた。当たった……


 もう一人


 装填、パーン……これも当たった

 敵兵は突撃してきた我が軍に驚く。


 次々と友軍がよじ登って突撃してくる姿に驚き、退却を始めた


 反対側の崖の機関銃座も一つ確保した様子。


 しかし時折打ち上がる照明弾で、倒れた戦友の姿が見えた。


 動かない者、うめきを上げている者……

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