第54話 日本石油と理研コンツェルン

 東京市芝区白金 山口誠太郎やまぐちせいたろう 邸宅


 日本石油、新潟鐵工所などで莫大な財を築いた、山口権三郎やまぐちごんざぶろう、息子の山口達太郎やまぐちたつたろう。現在山口家当主の山口誠太郎は石油、鉄道産業、石油掘削のための工作機械、銀行業でさらに莫大な財産を築いていた。


山口家はこの有田八郎外務大臣と駐日アメリカ大使館ジョセフ・グルー大使の会談にこの場を提供していた。


有田外相は言う

「私は、ソ連のスパイはドイツの商人が関係していると思います」

「ドイツ人が?」

 山本五十六海軍次官も続ける

「陸軍幹部はドイツは盟友だと思っているようですが、盟友のフリをして近づいているものと思われます。そして……」


 有田八郎外務大臣が話を遮り、

「山本君、言いづらいと思うから言わなくていい。対米和平を主張する山本君に対するプロパガンダをさかんに行っている朝日新聞社、そこにソ連の対日工作員、コミンテルンのシンパがいる可能性があると。故斎藤博駐米大使は確証はもてないがそう述べていた。朝日新聞社で政府の中枢に入っている尾崎秀実おざきほつみではないかという話だ。確証はもてないが……」


 山本次官はつづけて言う

「斉藤博君は長岡中学の校庭で一緒に野球部のコーチをして、キャッチボールをした仲だ。彼がアメリカで急激に体調悪化するというのは信じがたい。ソ連のスパイに少しずつ毒を盛られたのではないかと心配している。それもアメリカ政府の中枢にいるアメリカ人だ。ソ連にとっては、アメリカにいた斎藤博君と日本にいる私、山本が一番邪魔な存在であることはまちがいない」


 山口誠太郎東京山口銀行頭取は言う

「山本次官、あなたの命も危ない」


 有田大臣も続けて言う

米内光政よないみつまさ海軍大臣も同意見だと言っている。しばらく艦隊勤務をしたらどうかと」


「ここで俺が(山本)が闇の勢力と闘わないでどうするというのか……」



 ◇◇◇


 新潟県 刈羽郡横澤村かりわぐんよこさわむら 山口誠太郎邸(新潟本家)


 山口邸の山奥


「さあ、腰をしっかりと据えて、人形ひとがたの中心を狙うんだ。照門の中心に照星が来るように……撃て!」奥山少尉の声が響く


 パーン


「手首がふらついているぞ、本間!あ・・・」


「やった!命中!」

 宝剣ノアは見事、中心に命中した。


「宝剣、おまえはアホなくせに、銃の腕はいいな」

「アホは余計でしょ!」

「もう一発撃ってみろ」


 パーン

 また命中した


「宝剣はこのブローニングがいいな。本間カノ・・・君はちょっとこの銃は無理か」


 私(本間花音ほんまかのん)はこの宝剣のアホに負けるというのは悔しくてたまらない。


「本間、君はまあ、護身用のベレッタかなぁ」

 ベレッタの安全装置は不用意に解除されないようになっている。至近距離で撃つよう使用方法だけを教わった。


 二瓶ツルは「長州、死ねー!」と言いながら標的を撃ちまくる。

 パン、パン、パン・・・……

 自動拳銃の弾丸をあっという間に撃ち尽くし、全弾が人形の心臓部に命中。

 元会津藩士の戊辰戦争の恨みは根深い。

 まあ陸軍長州閥は兵卒、将校を問わず、躊躇なく撃ち殺しそうで怖い・・・


 私達は横澤村の山奥で数日間銃の訓練を受けたのち、

 ここから数キロ先の山横澤村やまよこさわむらの飯田家というところを訪ねた。ほんの3時間ほど歩いて着いた。

 陸軍近衛師団長 飯田貞固いいださだかた中将のご実家だという。

ここで次の指令を受ける。

 飯田家でお昼ご飯をいただいた。


「このゼンマイの煮物うんめー!」

 おい、宝剣おまえは遠慮というものを知らんのか・・・


 ここで受けた指令は、八石山はちこくさん久之木くのぎ峠を越えて、(刈羽郡)中鯖石村なかさばいしむら善根ぜごんの村で一泊し、高田村たかだむらの飯塚家に行けという。


 そこに理化学研究所の大河内正敏おおこうちまさとし先生が来られるので、「ゲンバク(原子爆弾)」について話を聞きたいので説明して欲しいという。

 大河内先生って何者か私達はよく知らなかった。



 ※横澤村、山横澤村は現在は長岡市、中鯖石村、高田村は現在は柏崎市である。

 柏崎市は理研コンツェルンの創業地であり、現在の「株式会社リケン」が最初の企業である。


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