陰謀と策略と

第48話 雪国の春

 私(本間花音ほんまかのん)は、あの田中菊松たなかきくまつ海軍大佐は、なかなかイケメンであるが、怪しさ満載で政府転覆を狙う工作員だといぶかっている。


 瞽女ごぜのタツさんと、宝剣乃亜ほうけんの三人は魚の行商人の姿で市場で箱を渡された。


 市場のおじさんがなぜか私に「はい」と手はず良く渡してきた。組織的だ。


 奥山佑おくやまやすく海軍少尉は我々に同行する。

 監視しているのではない。護衛のようだ。

 胸元には拳銃を隠し持っているのが見えた。


 私は漁船の中で小さな声で聞いた。

「それ拳銃ですか?」

「そう、ワルサーPP。ドイツ製だ」

 拳銃の名前は知らないが、ルパン三世かよ、と思った。

 (ワルサーP38)



 長岡鉄道寺泊駅、私の時代ではとっくに廃線になっている鉄道だが、朝の寺泊の魚市場から多くの魚の行商人が乗った。通学前だったのだろう。


 お婆ちゃんの行商人が多いが、みんな途中の與板町よいたまち三島郡与板町さんとうぐんよいたまち、現在は長岡市)や長岡市に売りに行くのだろう。

 その行商人に紛れるようにして長岡鉄道西長岡駅に着いた。


 ノアが言う「あ、長生橋だ」

 奥山少尉が答えた「できたばっかりの橋だ。あの橋を渡って長岡駅に行くぞ」

「このお魚、どうすんですか?」

「ノア、おまえが持て」

「重たいです……行李こうりも担いでいるし」

「しょうがねぇな。じゃ俺が行李をかつぐっけん。両手が塞がるのは困る」


 高層建築物がない時代だ。まだ雁木の二階建ての商店が並んでいる。

 どこの店も開いていて、現在のようなシャッター街ではない。

 大手通に入ると、大勢の人で賑わっている。


「その魚は長岡駅で交代に渡す。そこで団子屋になるからな」

「瞽女、魚の行商人、そして団子屋ですか」


「いいから、だまって言うこと聞いてろ」

「これから、なんと呼べば?」

「団子屋の兄さんと呼べ」


 怪しいな。ほんとに逃げ出したいが、拳銃でズドンだけは困るし。

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