第46話 敵の機関銃陣地

 昭和14年9月25日


 第7中隊は南楼嶺なんろうれいの六八一高地で、多くの犠牲を出しながらも正面の敵を猛攻中である。

 聞くところによると、敵から鹵獲ろかく(敵が遺棄した武器などを得ること)した中に、水冷式マキシム機関銃があるという。

 ドイツからのライセンスのMG08重機関銃だろうか、高性能機関銃を使用している。


 中隊は大隊命令(第3中隊は1ヶ小隊をもって第7中隊と交代し、六八一高地全面の敵を攻撃すべし)により、我々(宝剣信一ほうけんしんいち一等兵)の小隊を持って、敵を攻撃することとなった。


 背後から我々の機関銃中隊が重機(関銃)で援護射撃をする中で、我々が前衛にでて、第7中隊が交代する。

 その最中でも敵の機関銃、小銃の音は鳴り止まない。


 2人の監視兵を立て、地形、地物などを利用して交代に成功した。

 そして攻撃準備に掛かった。


 第1分隊は右に、我々の分隊は左に、

 前方を見ると、敵は40から50メートル先の一段高いところに軽機関銃並べている。


 ヒュン、ヒュンと私の頭上スレスレに機関銃弾が飛ぶ。

 少しでも鉄兜てつかぶとを浮き上がらせようものなら……

 昨日の高島一等兵は小銃弾が頭部の鉄兜を貫通し即死だった。

 同じ運命になる。


 今度は、全面の敵が、後ろから機関銃の援護を受けながら、ジリジリと前進してきた。

 2人の監視兵は動じることなく、その全面に出てくる敵に対して手榴弾を投擲とうてきしていた。


 しかし、その目の前の軽機関銃の敵を撃破しなければ前進できない。


 小隊長は突撃を決断した。

「打ち方、止め、着剣!」


擲弾筒てきだんとう!」

「準備出来てます!」

「撃て!」


 ボシュ、ボシュット榴弾が飛んで敵陣に向かって飛翔する。

 擲弾筒の射程圏内だった。

 数発のうち、どれかがその機関銃に命中し、銃声が止む。


「突撃!」

 剣を付けた38式歩兵銃を持って、敵の機関銃陣地めがけて突進。

 軽機関銃小隊も突入


 一斉に突撃してくるわが小隊に、敵は浮き足だって、逃げようとする。

 陣地の塹壕ざんごうに飛び込むと逃げ遅れた敵兵がいた


 彼が円匙えんぴで殴りかかってきたときに、

 すでに自分は躊躇無く腹部に銃剣を刺していた。


 相手の軍服から血がにじむ。

 銃剣を引き抜き、今度は逃げる敵に対して、小銃を構える。


 槓桿こうかんを引き、弾を装填して狙いを定めて、引き金を引く

 パーンと音がして、

 狙った兵は倒れた


 ふと我に返ると、いつしか自分も戦場の狂気に染まっていたのかもしれない

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