第45話 六八一高地

 南楼嶺なんろうれいを登っている時に、二時間ほど遅れてやってきた初年兵がいた。

 疲れて落伍して、他の部隊に紛れてしまって、そしてこちらに向かって追いついた。

 分隊長の岩崎伍長が其奴そいつが謝ると、思いっきりぶん殴られて、鼻血を出してへたり込んでしまった。

 この部隊は新潟県高田を本拠地として、初年兵は長野県出身も多い。古参兵は新潟県出身が多い。隣の県といえども教育環境も違うから、次第に軋轢が生まれかけていた。

 彼はどうも長野県出身だったようで、同じ長野の初年兵は、その伍長が新潟出身であるから不満の表情を見せていた。

 私(宝剣信一ほうけんしんいち一等兵)は、新潟の糸魚川の出身の初年兵だ。

 その殴られた彼の元に行ってこう伝えた。

 「あの伍長は、お前がいないとずっと心配してた。ゲリラに殺されて誘拐されたのではないかと気に掛けていた。『信州のご両親に顔向けできない』と言っていた。だから不満に思うな。戦場で迷えば死ぬ。『男の修行』だ。わかったな」

 そう言って頷いた。


 「飛行機だ!」

 「日の丸、友軍機だぞ!」

 「やった!」


 背後から時速数百キロだろう、ブロロロロロ…………とエンジン音と轟かせて、背後から敵の陣地の山の方を舐めるように飛んで行く


 「観測機だ。続けて航空隊が来るぞ」


 「『日の丸』の旗を広げろ!」

 「伏せろ!」


 後ろから軽爆撃機の編隊が飛来した


 最初の一機が急降下し、敵陣めがけて翼から爆弾を投下


 ド、ドーンと土柱が上がる。


 続けて後続の飛行機が急降下し、爆撃を続ける。

 

 陸軍航空隊の航空支援だった。

 「おー!」という歓声が轟いた。


 午後5時を過ぎたころだ。あたりはまだ明るい。

 私の小隊は第1機関銃中隊長の指揮か入り前進することになった。


 パパパパパ…………と敵の機関銃の弾が飛んでくる。

 殆ど山頂に近いところに到達したとき、


 南楼嶺の敵陣の前、第7中隊の攻撃地点に迫る……陣地背後に戦死者が多数、二十から三十の遺体がある。そして負傷者も多数


 その惨状にみな目を疑った………

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