第44話 前進命令

 支那しな※は遅れている?


 そんなのことは内地(日本本土)の人間のれ言にしかすぎない。

 蒋介石の軍を舐めてはならない。


 中国国民党はアメリカやイギリスから支援を受けている。

 ドイツ製の武器も購入して最新鋭の兵器を持っている。

 我々はまだまだ未熟な国産兵器である。

 敵は恐ろしく潤沢に兵器を持っている。


 我(宝剣信一ほうけんしんいち一等兵)我の敵は数億の人民からなる巨大な敵

 そして我が国より遥かに広大な国土

 この要塞を一つ潰しても新たにまた一つ現れる

 我々の兵は1人減り、また1人減り、わずか7千万国民でこの国と戦うことは遥かに無謀である。


 9月24日 大橋見習士官指揮のこの小隊は尖兵せんぺい小隊となっていた。

 第1回目の小休止の後に、私は斥候せっこう(敵情把握をする小部隊のこと)に命じられ古参兵に連れられていった。


 山裾やますそのあぜ道を体をかがめながら前進した。

 敵らしい影はない。銃撃もない。

 前の晩、通城での歩哨ほしょうに立っていたので十分眠っていなかった。

 帰ってきたときは古参兵ともども疲労困憊ひろうこんぱいだった。



 いよいよ我々の部隊は南楼嶺なんろうれいの山並みが迫る山間に入いる。


 その時、

 パーン、パーン、パパーン……

 この谷底の道の両側の山から交叉するように銃弾が飛来した。


「伏せろ!」

 緩んだ鉄兜てつかぶとを締め直し、遮るものを探す。

 田んぼの低いあぜを利用しながら匍匐ほふく前進をしようとするが、突然のことで色々な装備が邪魔だ。


 パーン、パーンと撃つ音……そしてカン!と鈍い音が響いた。


 後ろで「高島たかしま!高島!しっかりしろ!衛生兵は来られるか!」

「ダメです、今来たら、敵の餌食です!」

「くそっ、なんて……おい、高島!」

 バシッツ、バシッとビンタをする音……

「即死です……上等兵、諦めてください」

 


「後で必ず来るからな!」

 と叫ぶ声がする。


 また戦友が撃たれた。ちくしょう……

 体が強ばる、震える……その音で即死だったと解った


 それだけでない、我々の仲間を呼ぶ声、叫ぶ声……次々に撃たれている


 南楼嶺なんろうれいの坂道に入る。

 この先に、前衛として派遣されている第7中隊が既に敵と交戦中である。

 我々第3中隊はその部隊と交代することが命じられている。


 その陣地は「六八一高地」と名付けられていた。


 ※CHINAの語源ですが、現在は使われません。文脈上使用する場合があります。

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