第38話 蒼茫

「上手く巻いたわね」

「まあ、成功だ」

「指示はどこに行けというのか?」

「寺泊の魚市場だ。漁師が漁から戻る時刻に寺泊に入る。君たちには魚の行商人の衣装と箱を用意した。それで長鉄ちょうてつ(長岡鉄道・越後交通の電車線)で長岡の方に向かってくれ。寺泊の市場で指示があるはずだ」


「私(本間花音ほんまかのん)たち、なんかスパイみたいね」


 石崎タツさんが答えた

「そうよ」

「マジで?」

「ねえ、瞽女さんの話を新潟町の置屋で聞いたでしょ」

「ええ、諸国を回って、世間のいろいろな話を回って聞いて伝えるって」

「長岡に瞽女のかしらが居るのわかるよね?長岡藩の時代から殿様から保護されて。『くのいち」って聞いたことあるかな?」


「女の子の忍者のこと」

「そうよ。瞽女の中にはそういう人もいたの」

「げ!マジで、手裏剣とか剣術とか」


「目が見えないから戦わないわよ。主に諜報活動。諸国の情勢をあつめて殿様に報告していたわけ」

「まさか!いまの時代、江戸時代じゃないし、殿様なんて」


 その男性の奥山という漁師の男は言った。

「長岡藩の家老家が再興された。会津戊辰戦争で戦死した山本帯刀やまもとたてわき公のお家がね、ソレが誰だかわかるか?」

「はぁ?誰それ?」


「海軍次官 山本五十六中将だ。長岡藩家老山本家の跡継ぎ。しのびの一族も復活を命じられた」


「はい?江戸時代じゃあるまいし、忍者だなんて」


「そうよね。江戸時代じゃないし。冗談よ。ははは。しかし山本次官は、我が国の不穏な動きを察知して、この4月1日に海軍省官房調査課に高木惣吉たかぎそうきち大佐を任命した。私たちはその調査活動の一端を担っているってわけ。だから忍者じゃないから安心して」


「ああ、びっくりした、冗談きついんだから、忍者だなんて」

「君たち、協力するかね、というかここは海の上、もう後戻りは出来ない」

「協力を断ったら」

「海にドボン」


 殺す気か!

 どうも私たち、この仕事は断れないということがわかった。


「奥山少尉は本当に忍者の末裔だけどね」

「またまたご冗談を」


「戊辰戦争を知っているだろ?」

「ええ、長岡藩と会津藩と官軍が戦った…」


「柏崎に桑名藩の領地があって、最初に柏崎で新政府軍を桑名藩が迎え撃ったのだ。あまり世の中の人は知らないか。その総督が誰だか知っているか?」


「桑名藩?桑名ってどこだっけ愛知県、三重県?」


「越後柏崎、桑名藩雷神隊総督 桑名藩家老・服部半蔵だ」

「服部半蔵って、あの伊賀の忍者の?」


「そうだ。私の祖先は桑名藩雷神隊の一員だ。先祖は伊賀の忍者。戊辰戦争の後にこの越後に定住したんだがね」


「マジですか!!!!!!!!」

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