第36話 間瀬村

 間瀬村の夕暮れに漁師町に着いた。

 私(本間花音ほんまかのん)に向かって、石崎タツは、こう言った。

「これから船に乗るから」

「え?」

「追っ手を巻くのよ」

「追って?」

「さあ番屋に入って」


 漁師達は「瞽女さんが来たぞ!」と集まってきた。


「ねえ、ノアさん、あなた門付かどつけをやってみない?」とタツさんが言った。

「どういうこと?」

「みんなの前で三味線を弾いて歌を歌うのよ」

「もしかしたら、ライブですか?」

「ライブって何?」

「こら、ノア、昔の人に今の英語を言わないの!」


「うーん、どんな曲がいいかな」


漁師達が言う

「若い瞽女さんや、あなたは目が見えるんかの?」

「はい、案内をしているもんですけん」

「見習かい?」

「そんなもんです」

「じゃ、『佐渡おけさ』くらい歌えるろ」

「それなら歌えます」


 宝剣ノアが漁師達と話をしているとき、巡査(警察官)が見回っているのに私とタツさんは気がついた。

 門付けは、ノアと私がホンモノの瞽女さんのように装うための芝居だ。


 ノアは歌と三味線は上手なので、漁師さんたちを満足させることが出来た。それを見た巡査はその場から去って行った。

 そして、私たち3人は市場で売り物にならない魚を、浜焼きにしてをたくさんご馳走になった。


 魚を串に刺し、たき火の直火で焼いたもので、私たちは半年ぶりくらいに魚を食べた。越前浜といい、間瀬村といい、ホントにありがたい。


 旅の瞽女に施しを行うことは、越後では善行で徳をつむと信じられてた。農家や漁師は瞽女に優しい人が多い。


 今夜は浜辺にある番屋に泊まって良いとも言われた。古びた布団しかないが、焼き魚や長持ちするチマキをもらった。五月の節句に向けてそれぞれの家で作っていたものだ。


 これだけもらえば、食べ物には困らないどころか、逆に太らないか心配に思ったくらいだ。

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