第33話 洞盆嶺陣地守備戦
昭和14年7月1日 通山付近・
我が(
楠林橋には山砲第1大隊、歩兵第215聯隊第2中隊、MG(機関銃をMGと略す)3分の1、第3中隊
機関銃陣地 MG1ヶ分隊(第2中隊配属の機関銃小隊より)
楠林橋附近の地形は東と南は山岳地で、峨々たる山稜が通山に続いている。
敵の攻勢は、この方向から予想された。
北と西は丘陵地で段丘間には水田も点在していた。
7月初旬より、敵は夏期攻勢を企図していた。全戦線において活発な行動を起こしつつある。
7月12日 夜半、わが楠林橋警備地区周辺に大規模な攻勢を掛けてきたのである。
この洞盆嶺方面から激しい銃声、砲声が聞こえてくる。
22時頃
洞盆嶺陣地正面
パパパパパ……と機関銃の音が響き機関銃弾が陣地に飛来する。
陣地の土塁に弾が当たる音が響く
100人ほどと思われる敵兵が勇敢にも断崖をよじ登ってわが陣地に肉薄してきた。
ワア、ワアと中国語の声があちらこちらに上がる。
第2分哨の方面は彼らの銃声がこだましている。頑張って守ってくれ!
こちらの軽機関銃がダダダダダ……と敵に対して応戦する。
「崖を登ってくるぞ、擲弾筒!」
「はい!」
ボシュッと音をたって榴弾が飛び、バーンと炸裂する音が聞こえるが、敵兵の突撃の声小さくなることはなく、勇敢にひるまずに、こちらに向かってくる。
その声はだんだん近づいてきた。
私は小銃を構える。暗闇で動くもの、見当つかないが撃つ!
ガチャ、パーン、ガチャ、パーン
真っ暗闇のなか、当たっているかもわからない。
軍曹の声が響く、
「頭を上げるな!小銃、打ち方止め!着剣!」
「敵が迫っている!手榴弾攻撃に移る!」
「手榴弾を投擲しろ!」
後ろの兵が手榴弾を投げる。
バーン、バーンと陣地の前の崖で炸裂する。
「分哨長!軽機(関銃)は敵弾で破損、射撃不能!」
「よし解った!みな聞け!何がなんでも、敵を陣地に入れるな!」
陣地の休憩室に架設された電話が鳴り止まない。
軍曹はその電話を取りに行き、中隊長へ報告した。
中隊長「小林、敵情はどうだ!」
「軽機を有する敵相当数が我が陣地に肉薄し、手榴弾戦を展開中!」
「損害は!」
「戦死1、負傷2、残弾僅少です!」
「洞盆嶺陣地は重要地点である。必ず陣地を死守せよ。また、地形上援軍、弾薬は送ることができない」
「弾薬がなくなったら、銃剣で闘います、中隊長、安心してください」
軍曹は休憩室にあった残弾を持って来た。
「皆、良く聞け、洞盆嶺陣地を死守せよとの命令だ。手榴弾は有効に使え!敵が陣地に入る前に銃剣で刺すか、
休憩室で鳴っていた電話のベルが切れた。通信線が切断されたのだろう。
陣地は完全に敵に包囲されている。
崖の上の陣地に敵兵が現れた。
銃は装填してある。
引金を引く。
パーンという音と火薬の煙と臭い。
命中……敵は後ろに倒れ、崖を転がっていく……
殺ってしまった……
「宝剣!ぼやっとしてるな!死にたいのか!」
次の敵がすでに現れていて、こちらに銃口を向けかけた時だ。
パーン
頭部に命中……
次の兵は次弾を装填するまもなく、襲いかかってきた。
畜生!なんで来やがる!
もう無我夢中、無意識で銃剣で相手を刺していた。
ドサッとこちらの陣地に転がり落ちた。
他の兵は侵入してきた敵兵に円匙でバン、バンと敵を殴りつけて、よろめいた時だ。
エイ!
ドスッと銃剣をその敵兵に銃剣をつき刺した……
パーンという至近距離で銃を撃つ音、銃剣で刺された時に敵兵の叫び声……
どれくらい時間が経ったのだろうか。
敵のざわめきも下火になった。撤退したのだろう
疲労困憊で夜が明けた。
陣地は守り切った
こちらの陣地に転がる敵兵の死体……
ついに殺ってしまった……
敵兵のポケットから家族写真が覗いている。
拾い上げると、夫婦と子供とで撮った写真だった
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