第30話 砂丘

 私(本間花音ほんまかのん)が先導になり、私の背中の風呂敷包みを手で触れながら、石崎タツは歩く。その後ろに行李こうりを担いだ宝剣乃亜ほうけんのあ


 日和山浜ひよりやまはまから、関屋浜せきやはまに至り、青山浜あおやまはまへ向かって砂地の道を歩く。


 関屋の掘割の面影があるが、この時代には関屋分水路せきやぶんすいろはまだない。

 「競馬場の方向へ行って」石崎タツが言う。


 「競馬場?競馬場って北区じゃ?あれ、競馬場への案内看板が……」

 (現在の新潟競馬場は最初は市街地から西側の関屋地区にあった)


 驚くことばかりだ。

 関屋の競馬場を抜けてると、もう野菜畑が広がっている。

 

 「そうか、昔のことを知らないんだったわね。青山って、あなたちが住んでいる未来の世界でもあるの?」

 「ああ、青山ってイオンのあるところよね」

 

 石崎タツさんは「イオン」がなんだかわからない。そりゃそうだ。

 

 そのイオンのすぐの北側にある道路は昔からあったようだった。

 上に越後線の線路があるから、この道でまちがいない。

 

 農家と田んぼがの中の道を歩いて行く。

 ほんとにほんとに田舎だ。

 

 「疲れたでしょ?坂井輪神社がもうすぐあるから、そこで休憩しましょう」

 「坂井輪神社なら私も知ってる」


 そう言いながら神社まで歩き、ひと休憩。


 4月中旬、稲作も始まろうとしていたころ。

 桜の花も咲いている。


 私たち、旅に出たら、あの中国大陸に兵隊で行った2人からの手紙を受け取ることができないなぁと思って、


 「ねえ、石崎さん、軍隊の人に手紙を出すにはどうするの?」

 「部隊の名前を書けばいいのよ、そうすれば軍事郵便で送られるから。まあ返事が来るのはどれだけかかるか、わからないわね」

 

  神社で休憩していたら、どうも憲兵隊と思わしき車が西の方、内野町の方向に走っていった。


 「ああ、内野町の方にも捜索が行ったか。じゃあ、また海岸に抜けよう。そして内野町の宿はやめよう」石崎さんが言った。


 「というと、私の近所の五十嵐いからしを通るのかな」

 「五十嵐は漁師町と農家が少しあるくらい……」


 「泊まれる宿はあるかな」

 「小さいところだからね。ああ、角田村かくだむら越前浜えちぜんはまは大きい村だから、そこなら泊まれるかな」

 

 宝剣が言う

 「歩いて?だんだん荷物が重くなってきたんだけど……」

 「歩きに決まってるじゃん。あなたが先導をする?だったら私が荷物を持つけど」


 「お願い。たくさん歩いてもう足が痛い……」


 私と宝剣は先導と後ろを交代した。


 夕方の砂浜は人っ子1人いない。


 「石崎さん、ここなら話できる?あなたのこと」


 「まだよ。でもこれだけは言っておくわ。私は貴女たちを守れ、と言われているから、安心して。どこで内容を話すかは決まっている。そこまで待っていて」





 

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