第25話 漢水
昭和14年4月11日
ただし、下船の命令は出なかった。
今日は小雨がふっていたが、対岸にある夜の南京市はネオンサインが輝いているのが見えた。
ずっと単調な船旅で、兵士たちは小雨降る中に甲板に出て街を眺めていた。
部屋に残っているものはほとんどいない。
対岸の街、南京市中心部、長江の川岸には破壊されたトーチカが無残な姿をさらしていた。
対岸から中国人の姿が見える。
しかし、悠然と長江をゆく日章旗を掲げ、兵員を満載したこの船をみて、諦めのような視線で見ていた。
船は出航して、南京の市街地を通過する。
中華民国の首都だった大都会である。
高層建築物を始め、多くの建物が爆撃と砲撃で破壊され、無残な姿となっていた。
屋根のない建物、壁のない建物
だが、復興の槌音が聞こえている。
日本の貨物船が建築資材を下ろし、荷揚げや積み荷を行っている。
その作業員は、我々の船が陸軍徴用船だとわかると、手を止めて、こちらに萬歳を叫ぶ。
17時、我々の船は
その晩は非常の場合における演習、救命胴衣の着脱方法、兵器を携行して演習
その晩の食事は4人につき1本、ビールが配給された。
4月12日、未明に船は
これから先、日本が占領している大都市は
この船は漢口に向かっているのだろうか。
私(
乗船している兵士に、警備等用のない者は
武装した対岸対空攻撃監視隊が配置された。
そして、
4月13日
もう甲板に出ることは許されないので、蚕の棚のような寝床で過ごす。
夕食には新潟市から寄贈された清酒が八斗あり、配給された。ほんの一口であった。
我が国では桜咲く4月であるが、夜になると船倉は蒸し暑い。
船底に積まれた軽戦車やトラックを整備して試運転をしているエンジンの音が聞こえる。
しかし、この時点でも、将校ですら上陸地点は知らず、船舶を運航する船員のみしか到着地は知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます