第15話 手紙

 昭和14年4月、私(折笠巳之吉おりがさみのきち)の元に、分厚い手紙が届いた。

 住所は「新潟市東堀通」と書いてあり、「宝剣ノア」と書いてある。

 封筒はパンパンに膨らんでいた、

 開封され検閲された痕跡があるが、なになら聯隊の検閲官がニヤニヤしていたのが気に掛かる。

 便せんを開けると、なんだこれは?

 英語のように横書きで書いてある。

 ご丁寧に検閲官が、仮名遣いを朱書きで直したようで、解らないところは下線をひいていた。


 そして楽譜が何枚かある。

 まずは手紙を読むと、解らない漢字がある。人偏に本「体」なんだこの字は?「休」の間違いか?(当時は體と書いた)

 「お元気でしょうか」(当時は「お元氣でせうか」)

  気は氣を略したとわかったが、めちゃくちゃな文章だ。

 

 「この子は学が低い」のかと思った…

 (現代仮名遣いで書くと昭和初期の人にはわかりませんね)


 楽譜は自分で五線譜に起こして書いたという。

 「ダニー・ボーイ」(ダニイ・ボウイ)だろう。


 そして、「おノアさん」が好きだという曲がある。


 「あいみょん」の「マリーゴールド」と書いてある。なんじゃこりゃ


 楽譜でメロディはわかるが、休憩時間でさっそくハーモニカで吹いてみたが、なんと奇天烈な旋律なんだろうか、と思う。

 我が国にもアメリカにもドイツにもこんな曲はない。


 しかし、ハーモニカで吹いてみると、なかなかいい曲だ。

 五線譜の下にフリガナで歌詞が書いてある。

 なんか恥ずかしくなりそうな文章もあるが、これは良い曲だと思った。


 ほかにも「ヨアソビ」の「群青」か

 とてもテンポの速い曲だけど、これも素晴らしい。


 詩は日本語だ。これらの曲は聞いたことがない。

 この子らはいったいなんなんだ?



◇◇◇


 「おい、大野、なんでお前、幹部候補生の試験に落ちた?」

 私(宝剣信一ほうけんしんいち)は聞いた。


 「いや、俺もわからん。小隊長に聞きに行ったら、なにやら『書類が一枚足りない!」ということだ。確かにみんな揃えて出したはずだが、そんなはずはございません、と聞き直すと『貴様、上官が書類が足りないから駄目だ、と言っているのに上官の言いうことが信じられないのか!』とすごい剣幕で言われ、ビンタを喰らうのが嫌だったから、申し訳ございませんでした、と謝ってきたのだが、なにか変なのだ。」


「そうか、もっぱら、あの帝大生が幹部候補生試験に落ちたって、部隊内ではもっぱらの話のネタになっているぞ。まあ、将校になればずっと兵隊だけど、兵卒なら2年、短縮で1年半で除隊だからなぁ。貴様、それでよかったんじゃないか?」


◆◆◆


実在の人物では、昭和50年代まで上官は内実を話なかったという。

戦友会で「あの帝大生は将校には向かない。だから推薦しない」ことを話したという。

上官は早く除隊させ、帝大に復学させることを考えていたらしい。

 

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