第11話 初年兵

 召集令状を提出して、受付が済んだ後、聯隊れんたいの受付の古年兵から上等兵を紹介され、引率されて兵舎に案内された。

 木造の学校風の建物であった。


 歴史の古い建物であろう。階段の踏み板の角は丸くなり、板壁は木目が浮き上がっていた。日清、日露戦争の頃からこの兵舎で寝泊まりして訓練を受けてきたのであろうか。


 二階の内務班に案内された私は、起居する寝台を指定された。

 そこの部屋には既に戦友がおり、寝床の作り方、たたみ方を教わった。


 外套がいとう(コート)に脚絆きゃはん(ゲートル)、背嚢はいのうに軍帽、日用品を手箱の上に整理した。


 寝台から寝台の間は50センチくらいだった。


 最初に受けた教育は、敬礼の仕方である。


「気をつけ、敬礼!」の号令で

 手の平が上だの下だの、腕が高い、低い、首が曲がっている、目の玉が動いたなど、厳格である。


 隣の班から、びしゃっと、ビンタを打たれる音が聞こえた。


 敬礼は「服従心の発露である」と教育を受けた。



 食事の時間、

 飯上げの号令に、「○○、めし上げに行って参ります!」と大声を上げ、

 アルミのバケツで麦飯と汁を運んでくる。

 無造作に刻まれた沢庵≪たくわん≫を、二きれほどアルミの碗や皿に盛り付けた。


めしの分配、終わりました」と初年兵の声に、班長の合図によって食事を始める。


 食い始めて終わるまでその時間は約4分くらい。

 食器を洗って来る時間を入れて、6、7分くらい。


 毎日の訓練で腹が減って、食い足りずに残飯に手を出した初年兵にはビンタが飛んだ。


 1月の高田市たかだし(現 上越市)は毎日のように雪が降った。


 朝起きて起床ラッパと同時に飛び起きて、寝具を整理するとすぐに練兵場れんぺいじょうの雪踏みを行う。


 みんなで肩を組んで雪を踏み固める。

 広い練兵場で兵舎からはさほど遠くない。


「雪踏み止め!」の号令がかかると、兵舎に飛んで帰り、まもなく「飯上げ」になる。

 急いで飯を食って、軍装を整えて練兵場に急ぐ。

 整列するのが8時5分前


 士官学校出身の見習い士官が先に来て、厳しい顔で整列の動作を見つめている。


 銃の操作方法、行進、歩き方


 そして踏み固められた雪の上に伏せて、匍匐前進ほふくぜんしん


「前方に敵有り、射撃用意!」のかけ声、

 頭が高いと頭を殴られ、動作が遅いと尻を叩かれる。


 雪の上を匍匐前進ほふくぜんしんで這いずり回り、

 あちらこちらで、初年兵の「ハイ!」「ハイ!」という声とビンタが飛ぶ音が聞こえる。


 昼食も済ませると同じ訓練、それが夕方5時まで続いた。


(聯隊戦記の記録を元に構成)

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