第3話 尋問

 警察官は私(本間花音)に聞いた。


 「おまえらが未来のことを知っているっていうなら、その証拠を言ってみろ」


 「では、昭和は何年まで続くとおもいますか」


 「知るか、それに陛下が何歳までご存命かなんて不敬なことを」


 「昭和は64年1月7日までです。歴代天皇でも長寿の87歳でなくなりました。」


 「87歳、そんなご長寿にあらされたのか。ほう、そうか。不敬とはいえないかもしれないな。で、その次の元号はなんだ?」


 「平成といいます」


 「へーせー?それはどんな字を書くんだ」


 「たいららに、なるると書いて、平成」


 「じゃ、その次は?」


 「令和れいわといいます」


 「れーわ?それはどんな字だ」


 「命令めいれいの令に昭和しょうわの和です」


 「そんなつくり話を、じゃなにか?いまの支那事変の結果はどうなる?」


 「しなじへん、ってなんですか?」


 「蒋介石の中華民国国民党と大日本帝国はいま戦争をしているだろ」


 「その戦争は昭和20年8月15日まで続き、日本は降伏します。アメリカに戦争に負けます。広島、長崎、新潟に原爆が落ちて」


 「ゲンバクってなんだ?」


 「核爆弾です。ウランを使った爆弾です。一発で何十万人も死にます」


 警察官の顔が一瞬青ざめた。


(科学小説で特殊爆弾の話を聞いたことがあるが、この女はそれを知っておる。そんなのはまだ実現不可能なはずだ。7年後にアメリカが使って日本に勝つって?、それがこの街に落ちるってか?)


 「ウソを言うな!」

 

 「ウソじゃありませんよ。昔白山神社ってあったでしょ。あ、この時代はありますかね。そこの隣に県庁があってそこが平和祈念公園になっています。ボロボロになった県庁舎が原爆平和祈念館になってます。廃墟になっていて」


 「白山神社はまだある。大日本帝国が戦争に負けるなんてありえん!やっぱりおまえらはウソを言っているんだろ!」

 

 宝剣もよこから話を始めた


 「ウソじゃないですよ。私の時代では今はアメリカは同盟国です。日米安全保障条約というのがあって、日本にはアメリカの基地もあるんです」


「はあ?日米関係がか?同盟国?おまえは宝剣と言ったな」


「はい」

「西頸城の人間か?」

「お爺さんは糸魚川の方だと言ってました」

「宝剣なんて珍しい名字は日本で西頸城にしかないからな。能生村のうむらか、能生谷村のうだにむらか?」

「のーだにむら?なんですか、それ」

「聞いたことないのか?」

「はい、新潟県に30しか市町村はないでしょ?」

「何を言う、800くらい市町村があるんだ」

「800!そんなに?そんなんじゃ、どこだか分からないし、ここに来る前も坂井輪村とか言われて」


 警察官は続けた

 「おまえら、家がどこからもわからないんじゃないか!では話を変えよう。おまえらは身よりがあるのか?」


 「まったくわかりません。だってここに突然迷い込んだようですもの」


 尋問の警察官のひとりは部屋を出て上司に報告に行ったようだ。


 しばらくして戻ってきて、

 「分かった。おまえらに寝泊まりする場所を与えるから、俺についてこい」


 「え、たすかる~」


 「だが、条件がある」


 「条件ってなんですか?」


 「お前ら、『戦争に勝った、負けた』の話は絶対に人に言うな。豚箱に入れてやるからな、覚えておけよ」


◇◇◇


 本間と宝剣が取調室から出たあと、尋問を担当した警察官は署長に一部始終を報告した。

 

 署長は言った

 「この女どもの話は俺の昔からの付き合いがある特高(特別高等警察)の部長だけにしておけ。他言は一切するな。そしてあの女たちを監視する巡査を1人つけろ。そして俺の知っている置屋の『みなとや』の女将に手紙を書いておく」


 「わかりました。1人監視をつけます」


 「お前はあの2人を、『みなとや』に連れて行け」


 「はい」


 「未来のニッポンか。興味があるな。それに特殊爆弾がこの町に落ちるって?」


 「そう言ってました、何十万人も死ぬって」


 「それが本当なら一大事だ。昭和は64年まで続くって話も、まんざらウソでもなさそうだ」


 「彼女らの話にはあまり矛盾はありませんよね」


 「わかった。特高には、戦争反対主義だとだけ言っておけ。その他の話は内務省の情報部に話をする」


 「どういうことですか?」


 「彼女らから聞き出して、戦争で最悪の事態を避けるためだ。新聞社に内務省の情報部から出向がいるだろ。其奴と内密に進める。内閣情報部と話を進める。この話は陸軍には絶対に漏れないようにしろ」


 「署長、どういうつもりですか?」


 「このバカげた戦争をいつまでも続けるなんて真っ平ごめんだ」


 「え?」


 「統制派は気に食わない。226事件の後にさらに調子に乗っている。絶対に他に漏らすな。いいな」


 「署長、何をお考えで」


 「いいから、それ以上は聞くな」


 そう言って、新潟警察署長は窓から外を眺めた。




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