第14話 『決戦前』side夜空
「……僕は救われなくて良いんだよ」
夢の中の言葉が今でも頭に響く。
あれから私たちは下山し、魔女が現れる場所へと辿り着いた。
「みんな元気にやっているぽいピヨ」
ふわふわ周りを飛びながら嬉々として話すぷよよ。
「いや……今ここにいたら私たちの攻撃で巻き込んでしまうかもしれないじゃん!!」
「魔法省が避難命令出しているはずなのに避難してない奴が悪いピヨ!!」
「ん、完全に同意」
「よくない思考!!」
まぁ、避難命令が出たところで避難しない人は魔法省で働いていた時に嫌というほど目にしたので別に驚くことではないのだが。
「……そう言えば、優ちゃんはどこに行ったのでしょうか?」
ここに来る少し前、優ちゃんは突然、案内役を『操縦の魔女』に頼み、一人森の中へと姿を消したのだ。……何故そのような行動に出たのか『操縦の魔女』に尋ねてみたところ――
「ん、私たちを放置するくらいだから多分人助け」
――とのこと。
「まぁ、そんなことはどうでもいいピヨ!! 結局戦うのはクロネだからきお引き締めるピヨ!!」
バチンと、鳥特有の羽で私の頬にビンタするぷよよ。
「痛っ~~~~~~~!! この!」
「悔しかった捕まえてみろピヨ!!」
もう!! ふわふわ飛んでいるから手が届かないよ!!
「ん、こいつら……戦闘前だということ忘れてやがる」
な、何故か操縦の魔女さんから、化け物みたいな目を向けられるのは、一体どうして?
◇◇◇
あれからしばらく時間が経ったけど……灯ちゃんはいまだに現れない。
もしかして、あの放送は囮だった?
いやな考えが頭をよぎるが、私の考えを読んだのか、操縦の魔女が私に話しかけてくる。
「ん、放送は囮ではない。もうすぐ、魔女はやってくる」
操縦の魔女はそう言い残すと、自身に向かってバリアのような主規模な魔法を展開する。その次の瞬間、町全域が氷の嵐に包まれた。
「ぷよよっ!? つ、翼が生えてて助かったピヨ……」
ぷよよの言っていることは正しい。辺りを見渡すと、氷漬けにされた人間がチラホラ見える。……私も危うく、氷漬けにされるところだった。
「これが……魔女の力……」
「ん、これでもまだ優しい方。断罪の魔女や私と比べても、数段階劣っている」
操縦の魔女は「それこそ」と言葉を続けて。
「悲壮の魔女……つまり、マリアには傷つけることもできない。……いや、傷つけることは出来る。でも、すぐに回復される」
辺りを見渡すと、町だけにとどまらず山にまで氷が侵食していた。
一先ず私は、目の前に移る氷漬けにされた町の住民に向けて、属性魔法「黒煙 」を周りに付与し、救出を試みるも。
「……溶けない!? どうして!?」
いや、正確には溶けているのだ。しかし、その速度は余りにも遅い。
このままでは町の住民は皆、窒息死してしまうだろう。
焦った気持ちの中、不意に上空から声をかけられた。
「ん、魔力を体に纏うイメージを元に、魔力を体全体に流し込んでみて」
操縦の魔女のアドバイス通りに、体に魔力を通してみる。……すると、あれだけ苦戦していた氷が、瞬く間に解け落ち、中から若い住民が崩れ落ちるように現れる。
「お、重いピヨ!!」
「支えてくれてありがとう! ぷよよ!!」
ぷよよが住民を安全なところに連れて行ってくれるのならば、その間に私は先ほどの出来事を操縦の魔女に感謝と共に疑問を投げかけようと思う。
「……さっきはありがとう。お陰様で一人でも多くの人が救えたよ!」
「……ん、魔力の無駄遣いは、ほどほどにね」
「……うん。……最後にもう一つだけいいかな? 氷が解けた仕組みを、知りたいの……」
操縦の魔女は少し考えるそぶりを見せるも、早口言葉のような速度で解説してくれた。
「……あれは、魔力の質と言われるもの。魔力を体に身につけて、相手からの属性魔法や、固定能力からの干渉を防ぐもの。……現に先ほどの氷魔法には、溶かされないように加工を施した魔法。……魔力をより多く体に身につけた方が、相手の干渉力を
上回る」
なるほど……先ほどの感覚をマスターすれば、魔女の魔法にも対抗できるかもしれない。
などと、私が思考している間にも、氷の嵐は勢いを増していく。
「今戻ったピヨ!!」
ぷよよが、戻ってきた直後。いきなり氷の嵐はピタリと止んだ。……いや、ちがうな。
私が周りを観察すると、辺りは嵐のままなのだ。つまり、ここが台風でいう、台風の目的なポジションなのだろう。……ということは。
「ん、来たよ……」
嵐の中から、音もなくこちらに向かってくる、一人の女の子が見える。白をベースに、ガラスのように透明な氷の飾りがドレスの周りに印象深く配置されている。動画からはわからなかった顔色も、生気のない顔そのもので、この世界に深く絶望しているような表情を浮かべている。
彼女の名前は 水樹 灯。またの名を魔法少女 アイリス・クレール。
世界に絶望し、世界を壊すことに意味を見出してしまった女の子。
「私が、貴方を救う。……いや、救わなくちゃいけない!」
私は愛用の剣を取り出し、灯ちゃんを見つめる。
「……ふふ」
灯ちゃんは私の姿をとらえたのか、不敵に微笑む。
そんな灯ちゃんに、向けて私は――
「安心してね! 私が来たからには絶望なんてさせない!!」
……彼女を魔女にしてしまったのは、私のせいでもある。
魔女を言い訳に、離れ離れになってしまったから。……彼女を支える者がいなくなってしまったから。……全ては私の責任。
この戦いは、私の償いでもある。……どれだけ傷つこうとも、私は貴方を助ける。
めげない、必ずやり遂げるんだ。
グッと足に力を込めて、私は走り出す。……たった一人の女の子を救うために――。
◆◆◆
正義とは、なんでしょうか。
どうも! Yです。新作、『TSメスガキは秒でわからされる』が出ました!!
そして翌朝。「なにこれ!?」と驚いてしまいましたw。
なんとたった一話でこの作品と同じレベルの評価を貰ってしまいまして。
何故か、とても悔しく感じますw。
次回 第15話 『貴方の本音を聞くまで』です。
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