準決勝【02】『武器選択』


 男、女、共にまずは『電撃』のスキルで攻撃してくる気か――。

 なら、『シールド』のスキルを持たない俺には、よけるしか手はない。

 そのためにも――戦場の地形を把握しろ。


 コロシアムというだけあって、ここは円形の闘技場だ。

 フィールドは直径約五十メートルってところか。

 外周は高さ約三メートルの、誰もいない観客席に連なる壁で覆われている。


 相手の電撃のレベルは、男が2で女が3だった。

 ククルのレベル10の電撃を経験している俺には、よける事は難しくない――。

 と思ったが、二方向から飛んでくる攻撃は、なかなかに厄介だった。

 

 ――バチバチッ! バチバチッ! バチバチッ! バチバチッ!

 

 俺と同じ、戦闘のプロでもないので、時間差とかは使ってこねえが、それだけに闇雲な電撃が飛んでくるのは、対応に苦労する。


「ちょっと、ちゃんと狙いなさいよ! この役立たず!」


 攻撃が一旦やんで、肩で息をする俺の耳に、男を罵倒する女の声が飛び込んでくる。


「お、俺だって、一生懸命やってるよ!」


 男の方も言い返す――が、どうもその口調が言い訳がましい。

 早くも仲間割れか? しかも今のやり取りで、奴らの力関係も分かってきた。


 ついでに、スキルに気を取られて見忘れていた、奴らの基本ステータスを確認する。


 男が、

 

 HP:60/65 MP:21/32

 

 女の方が、

 

 HP:40/45 MP:37/45

 

 マジか、数値低っ!


 奴らもここまで勝ち残ったのなら、経験値でステータスアップしているはずなのに、それでも俺の初期値とどっこいどっこいじゃねえか。


 一人あたり、五、六発は打たれた感覚があるから、おそらく電撃一発でMPを1消費するんだろうな。俺の銃の弾丸の錬成と、かかるコストは同じって事か。

 そう考えると、弾丸を撃つための銃の錬成に、かなりのコストを要する俺って、けっこう効率悪いのね……。


 と、今はそんな事を考えている場合じゃない。

 相手の体力は低い。それでいて、さっきの無駄打ちでMPも消費している。

 それなら俺の銃の攻撃で、早期決着を狙うか――。


 もしくは相手のMP切れを待つ持久戦もある。

 どうせ見られているんだろうが、俺の現在のステータスは、

 

 HP:83/95 MP:48/50

 

 さっきの攻撃をよけるのに体力を消耗したが、MPはククルの罵倒も込めた気遣いのおかげで、『洞察』のスキルを使った以外は、まだフルタン状態だ。


 問題は魔法系スキルがないために、物理兵器の錬成にかなりのMPを割かなければならない点だ。


 奴らは、俺に魔法系スキルがない事に気付いているのか?

 冷静にステータスを分析すれば分かるはずだが、俺やククルみたいなオタクでなければ、ステータスの文言の意味すら分からないはずだが――。


 と、思っていたら、


「ちょっとあいつ、攻撃系のスキル持ってないみたいじゃない!」


 速攻バレたー! クソッ、尻に敷かれてるっぽい男の方はともかく、女の方はズル賢い顔付きそのままに、少しは頭が回る様だ。


 五連発リボルバー拳銃のM36を創るには、『創造』と『錬成』のスキルで、それぞれMPを12消費する。

 弾丸は入っているが、それでも合計24もMPを消費して攻撃機会は、たったの五回だ。


 しかも止まっている的を撃つ訳じゃない。標的は動く人間――、しかも二人だ。

 半分のMPを消費して打つ手として、これは効率がいいのか⁉︎


 だめだ、判断がつかねえ。

 今回の状況は、初戦の一対一の近接戦とも、ククルとの特殊状況下での対戦とも違う。


 平地戦なら数が多い方が勝つのは、兵法でも定石だ。

 たとえ格下相手でも、一人しかいない俺は、勢いで挑めば負ける――。

 考えろ、状況を覆す策を考えるんだ!


 数に勝るのもの――。それは個人の戦闘力だ。

 だが俺個人には、ククルみたいな超人的な力はない――。


 それでも手はある。

 一騎打ちのファンタジー世界ならともかく、近代における戦闘力とは『武器』の力だ。

 たとえ非力な少女が持っても、強力な武器は歴戦の兵をも瞬殺する。それが兵器ってもんだ。


 その悲哀を俺は、いくつも自分の小説で書いてきた。

 まさか、それを自分で実践する日が来るとはな――。


 だがここは、ひたっている場合じゃねえ。

 またイチかバチかだが、俺の『創造』と『錬成』のスキルはレベル5まで上がっている。


 レベル4の時点で、オートマチック拳銃の錬成に失敗したが、あれはMP量が基準を満たしていなかった事が原因だ。

 今の俺のMPは48――。

 いける、おそらくいける。いや、いけなければ、ここで負ける――。やるしかない!


 保険として、前回錬成に失敗したベレッタM92Fは避ける。

 あれは総弾数が多いのが魅力だが、その分ダブルカラムマガジンという、弾丸が複列に並ぶ複雑な構造が、余計なMPを消費する恐れがあった。


 もっとシンプルに、総弾数が少なくても相手を一撃で倒せる銃はなんだ――⁉︎


(――――、――――、――――!)


 俺のミリタリー脳がフル回転し、そして決断する。


 ――よし、これでいく!


「錬成ーっ!」


 俺の雄叫びと共に右手が光り、そこに鈍い輝きを放つ、武骨な鉄の塊が形成されていく。

 その重みを感じながら、俺は自分のステータスを急ぎ見る。


 残りMPは――、

 

 MP:14/50

 

 残ってる、成功だ!


 俺は生への道が開けた興奮のままに、新たな武器――コルトガバメントM1911の引き金を迷わず引いた。

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