準決勝【01】『共闘と仕返し』

 

 扉の向こうにあったものに、俺は愕然とした。

 コロシアム――。それは古代ローマの闘技場だった。


 ククルと並んで、そのゲートを通る。

 そして俺たちは、まるで闘牛場さながらの舞台へと躍り出た。


 広いアリーナの端に立つと、反対側のゲートの前に、二つの人影が見えた。

 間違いなく今回の――準決勝で戦う対戦相手だ。


 同時に後方のゲートが、ガシャンと音を立てて閉鎖された。

 これで文字通り、ここは『出られない』場所なった。

 空中には、また例の『お題』が表示されている――。

 

 『◯◯◯しないと出られないコロシアム』

 

 これが今回のミッションか。

 シチュエーションから、おおよその見当はつくが、一応スキル『洞察』を使って、伏せ字の内容を見るとするか――。


「ダーリン、待ってください」


 スキルを使おうとする俺を、ククルが制止する。


「これから戦闘だというのに、ダーリンのカスぐらいしかないMPを、ここで消費するなんて愚策ですわ。ここは私が――」


 そう言って、ククルが俺の代わりにスキル『洞察』を使ってくれる。


 まあ確かに上がったとはいえ、まだMP50の俺より、MP500のククルがスキルを使う方が、正しい選択だよな。

 にしても、カスぐらいしかないMPって、事実とはいえ心をえぐられるわー。


 だが三文字でMP3とはいえ、勝負所でこの3が勝敗を分ける可能性はある。

 だから、ここは素直にククルに甘えておく事にする。


「タ、ッ、グ――。『タッグしないと出られないコロシアム』だそうですよ。ダーリン」


 タッグか――。まあバトル関連の何かだとは思っていたが、これじゃまるでプロレスだな。

 また『運営』の野郎の趣味の悪さを感じるが、パクり好きの奴が、◯塾みたいに『殺シアム』とかネーミングしなかっただけ良しとしよう。


「二体二で戦えってことか……」


「そうみたいですわね。でも私、さっきのスキルでMPを3も消費してしまって、なんだか目まいがしますので、ダーリンよろしくお願いします」


 ハッ? あなたMP500持ちですよね⁉︎ まだ497も残ってるのに、何言ってんですか⁉︎


「おい、ククル。なに冗談言って――」


「ダーリンは、私を救ってくださるんでしょう? ならここは、か弱き乙女にカッコいいところを見せてくださいな」


「――――!」


 妖しく微笑むククルに息を呑む。

 ああ、そういう事か。こいつ、前回の『仲良くしないと出られないエレベーター』で、俺に翻弄された仕返しを、ここでしようって腹だな。


 もしそうなら何を言っても、ククルが前に立つ事はない。

 ――ここは俺が、一体二の勝負に挑まなければならないという事だ。


 それならそれで、さっさと腹を括る。

 ジタバタしているだけ、時間と体力の無駄だ。その点、俺は超合理主義者だ。


 おあつらえ向きに、相手がこっちに近付いてきた。

 まずその戦力を測らなくてはならない。


 男と女のペアか――。

 しっかし、二人とも辛気臭え顔してやがんな。

 男の方は、痩せて落ちくぼんだ目が、まるでガイコツみたいだ。


 スキルはっと――。

 

 『電撃:LV2』『火炎:LV2』『シールド:LV3』『浮遊:LV3』

 

 うん。注意するべき魔法系スキルは、このくらいか。


 なんか初戦の清楚系ビッチに、毛がはえたぐらいのスキルだな。

 あと別に見たくもねえけど、MP2消費したついでに、奴の『願い』も見ておくか。

 

 願い:『俺を馬鹿にした奴を全員殺す』

 

 うわ……、これ危ない系だよね。

 まあ、頭で思っていても実行に移す奴は、ほんとに一握りだろうが、それにしてもこんな事を思う奴が、現世から消え去ってくれた事は、地球にとって本当に良かったと漠然と思う。


 で――、もう一人の、これも痩せ顔に恨みがましい目つきの、幸薄そうな女のステータスは、

 

 『電撃:LV3』『火炎:LV2』『シールド:LV3』『浮遊:LV3』

 

 …………。なんか似た様なステータスだな。


 しかも、こんなステータスで、よくあのエレベーターを突破できたな――って、そうか、二人とも『浮遊』のスキル持ちだったせいか。

 それなら納得はいく。二人三脚での跳躍が余裕なら、後は嫌いな所を無難に言い合うだけだからな。


 とはいえ、二人の間からは、初見でも分かるぐらいのギスギス感が伝わってくる。

 こいつらも殺し合いまではしなかったが、嫌いな所を言い合ったせいで、その関係性は最悪になったという事か。


 俺たちも、なんだかんだで収まったが、一歩間違えれば決裂寸前だったからな……。

 だが、それなら付け入る隙は十分にあるはずだ。

 

 『私以上の女を、全員消し去る』

 

 という、女の方の願いも、男の方と同じで危険思想だ。

 うわー、類友とはよく言ったものだが――、きっと『運営』の奴は、こいつらにも言ったんだろうな。


 ――なら、お前の力で望みを叶えるがいい、と。


 俺の世界征服の願いも、たいがいだと思うが、『運営』の野郎、こんな奴らに変な能力与えんなよ……。

 いったい奴は、なにを考えてやがんだ?


 ――バチバチバチッ。


 視界の先に放電の光が見えた。

 さあて、もう考えている場合じゃない。

 奴らは――俺を殺りに来る。戦闘開始だ!

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