幕間②【03】『強欲とチーズケーキ』


「――――! この『ロリババア』! 姿を見せやがれ!」


 俺は虚空に向かって叫ぶ。


「あら、ダーリンは『運営』さんにお目にかかった事が、おありですの?」


 ククルの言う様に、この声は俺を、いや俺たち転移者を、こんなふざけた『出られない異世界』に連れてきた元凶――『運営』のものだ。


「いいや、会った事はねえ。だが、この幼な声にババア喋りなんていう作り込んだ設定――、きっとロリババアに違いねえ! お前もクリエイターなら分かるだろう?」


「はあ……」


 ククルの反応が薄い。いやこれ、絶対ロリババアでしょ? ねっ? ねっ?


「で、『運営』さん――。次のミッションですか?」


 淡々とククルが、見えない『運営』に語りかける。

 いや、ククルさん、カッコいいっす。パネえっす。未知との相手とのコンタクトの王道っす――。勉強になります。


『やはり、お前は冷静じゃのう。その男にほだされてイチャコラし始めた時は、一発おっ始めそうな勢いじゃと思ったが、杞憂じゃったのう。――やはり優勝候補の筆頭じゃ』


 このロリババア、サラッとエロマンガ的発言すんじゃねえよ! それに、『優勝候補』ってなんだよ?

 それを問い質す間もなく、『運営』が続けて口を開く。


『その通り、次のミッション開始じゃ。じゃが――』


 じゃが? なんなんだ?


『さっきの『エレベーター』で、出場者が大幅に減ってしまったのじゃ』


 運営の野郎、出場者とか何言ってやがる。何かの競技じゃあるまいし――。

 競技⁉︎ ――って、これまさか最後の一人を決めるためのミッションなのか⁉︎ だからさっき『優勝候補』って言ったのか⁉︎


『最近の人間は根気が足りんのー。ちょっとお互いの嫌いな所を言い合ったくらいで、ボッコボコ殺し合いを始めるわ、連携乱して足を踏み外すわ――』


 心底残念そうな『運営』の声。その常軌を逸した発言に、メスガキの声ながらそら恐ろしくなってくる。


 ククルが俺と同じミッションをこなしてきた事で、想像はついていたが、やはり俺たち以外にも、同じミッションに挑まされた奴らがいたって事が、これでハッキリした。


 これじゃ、まるで――トーナメントじゃねえか!


『あーあ、カードを使ったジャンケンとか、鉄骨を渡らせたりとか、他にも色々なミッション考えとったのになー』


 やはりこれは、ふるい落としだ! あと『運営』よ、それ全部パクリネタだよね?


『結局、この時点で残ったのは、お前らと、あともう一組になってしもうた。もう準決勝とはつまらんのー』


 ちょっと待て――。って事は、残ったのは俺とククルを入れて、あと四人なのか⁉︎ それに準決勝って⁉︎


「で、次のステージはここですの?」


 ククルが冷静に、状況を進行してくれる。いやほんとククルさん、申し訳ねえっす。


『いやいや、ここはエレベーターの到達地点。いわば休憩所にすぎん――。フフフ、ゆっくり休憩できたじゃろ? じゃがサービスタイムは終わり。宿泊は別料金じゃでの』


 またサラッと、エロトークかましてくんなよ!

 だが、次の戦場はどこだ? それに準決勝って事は、対戦形式か⁉︎


 緊張する俺に、


『まあ、茶ぐらいはサービスしてやろう――。ほれ』


 『運営』がそう言うなり、虚空から何か物体が落ちてきた。


 ――ベシッ!


 呆然とした俺は、それを顔面で受け止める。


「痛ってー、チクショー、なんだこれ⁉︎」


 地面に転がった黄色い物体――。いや箱に、俺は見覚えがあった。

 ログインボーナス――。それはエレベーターのミッションを乗り越え、また一日生きながらえた俺への報酬だった。


 クソッ、やっぱりカ◯リーメイトか! しかもバニラ味って。えっ、俺が知らない間に、新製品出てたの?

 いやいや、問題はそこじゃなくて、茶って言ったよね⁉︎ この殺人的水分吸収食物、それと対極の代物なんですけど!


 そんな俺の心を見抜いのか、


『やはりお前は――『強欲』じゃのう』


 『運営』が言った瞬間、俺の顔面に第二の物体がクリーンヒットした。


 グヘッ! なんでいつも顔面⁉︎

 地面に転がった円筒状のプラスチックを手に取ると、それはもう生産完了になったポ◯リスエットの、超極小サイズだった。

 はあっ? ちょっ、よくこんなの見つけてきたな? 『運営』の奴、副業で安売りの小売問屋とかやってんの⁉︎


 はあ……、こんなのブロック一本分にもなんないでしょ……。

 そう思いながら、同じくこんなものを、あてがわれているであろうククルに目をやると――、なんとチーズケーキを前に、オシャレなティーカップで紅茶をすすっているではないか⁉︎


 うーん、ククルさん。こんな時でもエレガントですねー。

 って、なんでじゃー⁉︎ なんで俺がカ◯リーメイトで、あいつはチーズケーキなんじゃ⁉︎


「おい『運営』――!」


 その不満をぶつけようとする俺に、


『世の中が平等とでも思ったか? 違うじゃろう。格差なんてものは、どこにでもある。それは異世界でも例外ではない』


 『運営』が冷酷な現実を突きつけてくる。


『そんな事は、お前が一番よく知っとるはずじゃろ――?』


 とどめの一言に、過去の記憶が呼び起こされ胸糞悪くなってくる。


「ダーリン……」


 心配そうにククルが声をかけてくる。


『欲しければ、自分の力で奪えばよい。その女から。力ずくで。何もかも。――すべて総取りするんじゃろ? なんせお前は『強欲』じゃからの。カッカッカッ』


 また運営の野郎、俺を『強欲』呼ばわりしやがった。いったいなんなんだ⁉︎


「ダーリン……」


「なんだよ、大丈夫だよ」


 また心配してくるククルに、俺は虚勢でもって返す。


「一口、いります?」


「えっ?」


 これは予想外の展開だ。女の子のスイーツを奪う気なんて毛頭なかったが、くれるというなら話は別だ。

 それに一口あげるって、間接キッス込みの『はいアーン』ってイベントですよね⁉︎


 年甲斐もなく高鳴る胸の鼓動――。


 そんな俺に、


「土下座して――、『ご主人様のおこぼれを、憐れな奴隷にお恵みください、ククル様』って、言ったらいいですよ」


 天然ドSの超絶美少女は、曇りのない笑顔でそう言ってきた。

 ここまでくると清々しいですよ、ククルさん……。


「『運営』ーっ! 次のステージはどこだーっ⁉︎」


 ククルに答えるかわりに、俺は虚空に向かって叫ぶ。


『ほお、気合い十分じゃの『強欲』よ。ではあちらに進むがよい』


 すると、虚空の一部に突然、扉が出現する。


「あーんもう、ダーリンのいけずー」


 俺はそんなククルの声を背に、カ◯リーメイトをむさぼり食いながら、扉に向かって一直線に突き進んだ。

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