幕間②【02】『隠しスキル』
情けねえが、ククルのおかげで自分を取り戻せた俺は、ククルの膝から起き上がると、白い虚空に自分のステータスを表示する。
おそらくこの快調さからいって、ククルが固有スキル『女王様のご褒美』で、HPを全回復させてくれたのだろう。
HP:95/95 MP:50/50
予想通り全回復している。ゆっくり休めたおかげでMPも全回復している。
しかもステータスの上限も上がっている――。やはり御多分に洩れず、格上と渡り合うと、ステータスの上昇は早いらしいな。
スキル:『創造:LV5』『錬成:LV5』『洞察:LV5』etc――。
スキルレベルも上がっている。
まあ相変わらず魔法系スキルはゼロだが、固有スキル『器用貧乏』のおかげで、スキルが一つでも上がると、連動してその他のスキルも、全部横並びで上がってくれるのはありがたい。
戦闘手段は、リアル兵器の錬成か肉弾戦しかないが上等だ――。
俺はマジで『剣と魔法のファンタジー』全否定だからな。
「あらあら、ずいぶんと便利な固有スキルをお持ちですのね、ダーリン」
後ろからククルも、俺のステータスを『洞察』のスキルで覗き見していたらしい。
「もー、覗き見なんて、ククルさんのエッチー!」
とか、どっかのネコ型ファンタジーみたいな事、言ってやろうかと思ったがやめた。
こいつは転移前に、俺のPCをガチでハッキングして、厳重パスワードをかけて秘匿していた『エロ画像フォルダ』を覗き見した奴だ――。
この程度の覗きなど今さらすぎて、俺の方が萎えてきた。
隠しても見られるのなら、どーでもいい。
もうメンタルのフルチン気分ですよ。フンス!
「器用貧乏は俺の得意技でな――。極めれば完璧超人なんだが、お前みたいにはいかないのが、凡人の現実だ」
「フフフ。奴隷からとはいえ、褒めらられるのはいい気分ですわ。しかも今はコメ欄みたいなうわべではない、ダーリンのほんとの言葉ですからね」
うわー、一つの会話に奴隷とダーリン混ぜてきやがったよ、こいつ。
まあ、俺もそれに慣れてきちゃったんですけどね……。
「とはいえ、この『裏読み』だよな――」
俺はスキル欄の最後にある、
固有スキル:『裏読み:LV99』
について、つぶやく――。
正直、ここまでこれたのは、このスキルのおかげだ。
こいつは俺が間違った選択をした場合、悪寒でもってそれを警告してくれた。
まずは初戦の『大願成就しないと出られない部屋』で、清楚系ビッチに俺がコロッと騙されそうになった時。
次の『一発必中しないと出られない回廊』でも、拳銃の命中率に拘る事がギミックの狙いだという事を、俺に教えてくれた。
で、ククルと出会った『仲良くしないと出られないエレベーター』では、俺の『妙手』だと思った手が、その逆の『悪手』だと――。本当にこれまで、ことごとく警告を与えてくれた。
それだけじゃない――。
俺はククル戦を通して、一見悪手と思える方法でも、『裏読み』が警告してこなければ大丈夫という、逆転の発想にも行き着いた。
これはスキル本来の性能以上に、大きな武器になる。
しかも、このスキルなら相手に事前にバレていても、対策のしようがない事もポイントが高い。
「裏読み――? なんですかそれ、ダーリン?」
「あー?」
ククルの言葉に思わず首をかしげる。
「裏読みは――、俺の最終兵器。いや最終奥義だよ」
続けて胸を張りながら、心からの本心を言葉にする。
フン、スキル欄を見ておきながら白々しい。
だが、こいつは分かったところで、俺の精神スキルみたいなもんだからな――。
知られたところで、ノープロブレムですよ。
「へえ、なんだか隠しスキルみたいな言い方――。ダーリンはそういうの好きそうですものね」
「――――⁉︎」
思わず息を詰まらせる。
まさか……、本当に見えてねえのか⁉︎
冷静になれ俺。ククルに気取られずに、冷静に考えるんだ。
ずっと気にはなっていたが、チート超人のククルのスキルでさえ、どれもレベルは10を超えていないのに――、俺の固有スキル『裏読み』は、初期値でレベル99だったというのは、やはり何かがおかしい。
よくよく考えれば、それこそチートもいいとこじゃねえか……。
しかも、それがククルみたいなの高レベルの『洞察』をもってしても、相手からは見えないなんて……。
これは、俺の大きな武器なのか?
それとも『諸刃の剣』の自爆装置なのか……?
こんな時にかぎって、襲ってくる悪寒が、自分の精神からくるものなのか、スキルの警告によるものなのか判断がつかない。
――だが、ここは腹を括れ、俺!
短い間に、いくつもの死線を乗り越えた経験と自信が、俺自身にそう言い聞かせる。
「いつかお前にも、この隠しスキルが見える様になったら、そのレベルにビックリするぜぇ」
そしてククルにも、ことさら滑稽にごまかしの言葉を返す。
ここは一旦、『裏読み』の件は俺の胸だけに留めておこう――。
「フフッ、じゃあ楽しみにしていますね、ダーリン」
ククルも特には深く追求してこない。
ホッとしたのも束の間、
『では、イチャコラは、この辺でよいかの?』
次の瞬間、あたり一面何もない白い虚空から、女の声が聞こえてきた。
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