三回戦【04】『転移の時はHDを破壊する時間をください』


 そして迎えた第八エレベーター。

 また先行はククル。

 果たして今度は何を言ってくるのか?

 それにしても、さっきのククルの呟きが気にかかる。

 

 ――ダーリンだって、理解してくれなかったくせに。

 

 何をだ? しかもなんで過去形?

 確かに俺はここまで、この嫌いな所を言い合うミッションに、『俺を理解していない』の連発で切り抜けてきたけど、それが地雷だったっていうのか?


 まあそれでなくても、お互いのメンタルは悪化してきてるけどね。

 そもそも『仲良くしないと出られないエレベーター』とか言っておきながら、その過程で『お互いの嫌いな所を言い合ってください』なんて、冷静に考えれば破綻前提のミッションだ。


 これもきっと、今も裏で控えている『運営』の野郎の発案なんだろうが、本当に悪趣味が過ぎるわ。


「ダーリンは……」


 ククルが口を開いた。


「いつも……、うわべの優しさしかくれなかった所が嫌い……」


 はい? ほんと何言ってんのこいつ?

 俺とお前、この異世界が初対面ですよね?

 そりゃネットのコメントに、コメント返し程度の交流はあったけれど、その事言ってる訳?

 マジで意味が分からん。


 ここまでの会話で、こいつは俺の小説のファンを装いながら、本心では俺の底辺ぶりを笑っていた事は分かった。

 だがそれでも俺は嬉しかったから、その時は丁寧なメッセージを返したよ。


 それが『うわべの優しさ』って言われても、世の中には社交辞令っていうもんがあんでしょーが。

 うわべと言われれば、その通りうわべだよ。


 うーん。もしかしてこいつ、頭はいいのにネットナンパとかに、コロッと騙されるタイプか?

 冷静になって見てみれば、派手な格好はしているが、どう見てもまだ十代の少女じゃないか。

 ならここはオッサン、いや大人として言ってやらねばなるまい!


「あのなあ、初対面で申し訳ねえが――、俺はお前の、その何かと他人に依存しようとする姿勢が嫌いだ!」


 言ってやった。というより言ってしまった。


 ――ヤバイ。また思わず感情的になっちまった。


 ククルの反応は……? あー、怒ってらっしゃる。

 何も言わずに下を向いているが、体から湧き上がるオーラで十分それが分かる。


 クリア判定によって足場の円が回る間も、ブツブツと何か言っているが聞き取れない。

 いや、二人三脚の密着状態でこれは超怖いわ。


 なんて事に俺が気を取られていると――ククルの奴、状況が整った瞬間、不意打ちともいえるタイミングで、いきなり向こう側のエレベーターへのジャンプを開始しやがった!


 ――あっ、これダメなやつだ。


 何度も言っているが、俺はHP1の状態だ。

 跳んでるのだって、実質ククルが俺の体を無理矢理に引っ張っているのも同然だ。


 そんなだから、当然、体への負担もすごい。

 意識が断続的に途切れては覚醒する。


 おそらく、死ぬ→ククルの固有スキルで蘇生→でもやっぱりすぐ死ぬ→またククルの固有スキルで蘇生、を繰り返しているんだろうが、これはマジで胸糞悪い感覚だ。


 で、なんの幸運か着地の瞬間は生きているターンだから、なんとか足形を外さずに踏んで、またエレベーターが上昇していった。


 ……ダメだ。まったくペースがつかめねえ。

 残りはあと二回だが、次もうまくいく確証なんて、まったくないぞ。


 そして、それ以上考える時間もなく、第九エレベーターが第十エレベーターと合体して、また『嫌いな所を言い合う』ターンとなった。


 ここは自分で提案したルールを無視して、俺が先手を取るべきか?

 だが頭に何も浮かんでこねえ。

 それに変な事を言ってククルに逆上されたら、余計に状況が悪化するかもしれない――。


 結局、俺は受け身に回った。


「ダーリンは……」


 はい。ダーリンは?

 間を置くなよ。なんか怖さが倍増してくるじゃんかよ。


「可愛い……って言ってくれなかったから……嫌い」


 えっ? そこ? 

 いや、確かに口には出さなかったけど、初めて見た時から超絶可愛いとは思ってたよ。


 だからそれを、すかさずククルに伝える。


「いや、お前は性格はアレだけど、めちゃくちゃ可愛いぞ。うん、間違いない!」


 これで少しは機嫌が直ってくれれば――と思ったが、


「嘘、嘘! 今頃、言うなんて絶対に嘘よ!」


 あー、そうきますかー……。

 まあ、これもよくあるパターンといえばそうだが、もうどうすりゃいいんだよ。


「この服も、髪も、パンツだって、全部全部全部、ダーリンが好きかと思って、こうしたのに!」


 えっ、だから俺たち実際に会ったのは、この異世界が初だよね?

 別にネットでやり取りしていた時も、ククルがエロ同人作家だったとはいえ、性的な話題はおろか、創作以外の話題には一切触れていなかったはずだ。


「なんでお前が、俺の女の趣味について分かるんだよ⁉︎」


 率直に疑問をぶつける。


「知ってるもん……」


 いや、だからなんで?


「見たもん……」


 えっ、何を? なんか嫌な予感しかしないんですけど!


「ダーリンのパソコンの……『実用』っていう名前のフォルダ」


 あ、俺オワタ。

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