三回戦【01】『ミッション開始』
地面が崩れると同時に、急上昇を始めたエレベーター。
動揺する俺をよそに、ククルは不敵な笑みさえ浮かべている。
ついにミッションが始まった!
そう思った矢先――エレベーターがある高さまでくると、ピタリと動きを止めた。
――――⁉︎ いったい何が起こったのか?
足を動かさない様に振り返ると――背後が、こちらと同じ四畳半サイズのスペースになっていた。
「エレベーターが合体しましたね」
ククルが横目で俺を見ながら、そう言ってくる。
飛び乗ったエレベーターは、横側一面だけが開いていた。
それが今、まるで十畳近い閉ざされた部屋になっているという事は、ククルの言葉通り、まったく同じ作りのエレベーターと、開放面の向きで合体したという事なのだろう。
なるほど、状況はなんとなく分かった。
だが、こっからどうしろというんだ……?
「ダーリン、あれを見てください」
ククルが元の向きに戻って、正面を指差している。
見ると、俺たちが飛び込んだエレベーターの壁に、新たに文字が浮かび上がっていた。
『お互いの嫌いな所を言い合ってください 1/10』
………………。またふざけやがって、クソ運営!
いや、落ち着け俺。これがミッション遂行の条件なら、粛々と進行するべきだ。
まあ内容がアレっちゃアレだが、ただ本音をぶつけ合うだけっていうんなら、難易度は高くない。
ククルの反応はどうだ?
相変わらず、余裕綽々って顔をしているが……。
これなら、マジレスしても大丈夫……か?
「ダーリン」
「はい⁉︎」
ヤベッ、思わずきょどった声を上げちまった。
なるべく内心は悟られたくねえのに……って、俺って自分でも気付いてなかったが、結構ビビってたんだな……。
「じゃあ始めましょっか? そ、れ、で、は、先行はダーリンで!」
うわ、先手を取られた! っていっても俺が先手なんだが……。もう訳わからんわ。
それに、1/10って数字……。これって、おそらく十回のうちの一回目って事だよな。
なら、これは最初はソフトなのから始めた方が無難なのか?
って言っても、相手な嫌いなとこだろ……。あー、言いづらいわー。
かといって適当かましても、おそらく運営の野郎に見抜かれてペナルティになるんだろうし……。
「ダーリン!」
あーもー、考えてる時間はなしか! えーっと、えーっとー!
「あー、人が瀕死の状態なのに、顔面踏めるお前の神経が嫌いだー!」
「…………」
慌てたとはいえ、思わず頭に浮かんだ事を言っちまった。
いや、でもこれほんとに俺がずっと思ってた事だし、明らかにククルの方が悪いよね。
だから、そんなに怒らないでくれますよね? ねっ、ねっ、ねっ⁉︎
「ウフフッ……。じゃあ今度は私ですね」
おっ、セーフか!
あー、生きた心地がしなかったわー。
「ダーリンはー、本当は私のパンツが見たいのに、別に見たくありませーん、っていう顔をする、ムッツリさんな所が嫌いでーす」
えっ、なに言ってんのこいつ?
いきなり性癖関連⁉︎
確かにさっきククルがパンチラしてた時、見たり見なかったり、見えなかったりしたけど、そんなのあからさまに見たら、人としてアウトでしょ⁉︎
なのに、それをバッサリ、ムッツリスケベ扱いなんてひどい……。
って、やっぱ悪口言い合うのって、簡単かと思ってたが結構くるもんがあるなあ……。
――ウイーン。
おっ、足元の円が回転を始めたぞ。なんか立体駐車場の車状態だな。
で、百八十度回転して――反対側に向き直ったところで停止か。
これで第一関門は通過って事なのか?
ん? 目の前にまた、同じ円と足形があるぞ。
あー、これってやっぱり――。
「跳びますよ、ダーリン」
そういう事だよな。今、踏んでいる足形から、前方の足形に跳び移れっていう事だよな。
距離は――三メートルはありそうだ。
単独なら、助走をつければいける距離だが、状況は二人三脚状態だ。
しかも足場を変えられない今の条件で、助走なしからの跳躍なんて、常識で考えれば絶対に無理だ!
常識で考えれば……な。
だが、隣にいるククルの化け物じみたステータスなら、きっといける。
いや、もうすでにククルは跳ぶ気でいる。
跳躍は右側のククルに任せるんだ。
こいつなら俺の体ごと助走なしで、この距離を跳ぶなんて訳ないはずだ。
俺がやるべき事は、ただ一つ――。着地のタイミングを合わせる事だ!
「せーのーっ!」
ククルが俺にお構いなしで、足場を蹴った。
次の瞬間、今までいた側のエレベーターが、ガクンと音を立てて落下を開始した。
やっぱりか!
足形を外すとこのエレベーターは、地面に向けてすぐに落ちる仕組みになっていた。
地面と言ったが、その地面はすでに最初の跳躍後に、跡形もなく崩れ去っている。
となると、もしエレベーターごと果てのない奈落に吸い込まれれば――、そこでミッションはデッドエンドだ!
だが、跳んだ先の足形を外せば同じ事――。
宙を跳ぶほんの数秒を、まるでスローモーションの様に感じながら、俺は自分の両足に全神経を集中させていた。
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