幕間①【06】『ホップステップ二人三脚』


 横一面が、ぽっかり空いたエレベーターが迫ってくる。

 いや正しく言うと、ククルに首を掴まれて、強制的にエレベーターに迫らされているのだが。

 しかも足首を縛られた、二人三脚状態でだ。


 ちなみにククルはHP300台の化け物ステータス。

 俺は回廊を抜けた時点でギリギリだったHPを、ククルに生かさず殺さずで削られ続けて、現時点でたぶん瀕死の状態だろう。

 半自動で走ってるとはいえ、かなりキツイ。というか本当に死んでしまいそうだ。


「ウフッ、ウフフッ」


 俺の右隣で走るククルは、えらく楽しそうだ。

 いやマジ勘弁してください。

 このままエレベーターの中に飛び込む気なのか?

 と思ったら、


「はーい、ストップー」


 って、おい急に止まりやがったよ!


「グヘッ!」


 勢いの止まらない俺は、右足が固定された状態で、ありえない角度で体を曲げながら地面に顔面を強打する。

 クソッ、これ完全に死んだぞ…………と思ったが死んでない? ホワイ?

 アゴを支点に地面すれすれに顔を上げるという、無様な姿勢でステータスを確認する。


 HP:1/85 MP:0/35


 いち? 寸止め? どういう事だ⁉︎

 俺がさっきククルに攻撃仕掛ける前、HPは確か3だった。

 そっからステータスを覗いたお仕置きとか言われて、HPの回復は止められたはずだ。


 で、今の地面への猛烈キスは、相当なダメージだったはずなのに、ギリ1だけHPが残っているなんて、あまりにもおかしすぎる。


「生きているのが不思議、って顔してますね。ダーリン」


 そうか! こいつがまた何かしやがったのか⁉︎


 もう一度、ククルのステータスを見る。

 すでに一回、覗き見がバレているので、今さら何度バレたって同じ事だ。

 HPやMPじゃない――。スキルを調べるんだ。


 空中に表示されるページをめくる俺は、

 

「――――⁉︎」

 

 その一つに目を奪われる。


 固有スキル:『女王様のご褒美:LV8』


 なんじゃこの、いかがわしい固有スキルは⁉︎


「ダーリン、また覗き見? もーエッチなんだからー」


 とりあえず黙ってろ! いや、ちゃんと説明しろ!


「そんな怖い目で見なくても、ちゃんと教えてあげますよ。わ、た、し、はー、自分に隷属するいい子ちゃんには、ご褒美をあげられるんですー」


 つまり何か⁉︎ 今、俺はククルの支配下にあるって事なのか⁉︎

 ――――⁉︎ ま、まさかこの縛られている足のせいか⁉︎


「気付きましたー? ダーリンは今、私と繋がっていなくては死んでしまう憐れなスレイブなのでーす!」


 わざわざ奴隷を横文字で言うな!

 だが、これは相当まずい状況だぞ。

 今回のミッションは戦闘じゃないが、だとしても主導権を相手に握られるのは分が悪すぎる――。


 しかも、その相手がトチ狂ってるだなんて最悪だ……。

 加えて、離れた瞬間にHPゼロになって死んじまうなんて――、これ本当にククルの奴隷状態じゃないか!


「ダーリン、エレベーターの中を見てください」


 横一面が空いた四畳半サイズの箱。あらためて見ても印象は変わらないが……。

 ん? 中になんか模様が描いてある?

 丸い円の中に足形が……三つ。なんか真ん中だけ、横幅が大きい様に見えるぞ。

 これは――⁉︎


「フッフーン。分かりましたー?」


「二人三脚で、あの足形に正確に飛び込めっていうのか?」


「おそらくそうですね。私とダーリンは文字通り『運命共同体』なのでーす!」


 ……すまん。少し考える時間をくれ。


「じゃあダーリン、いきますよー。息を合わせて――ホップ、ステップ、ジャーンプです!」


 やっぱり、考慮時間なんてなしかー!

 ならばと腹を括って、ククルの掛け声に合わせて、三段跳びを実行する。

 外足――内足――そして最後の外足で勢いよく地面を蹴り、エレベーターの中へと跳躍する。


 ――タンッ!


 幅跳びの要領で両足、いや三脚同時に、足形の上に着地する。

 位置は……ずれてない!

 おそらく、この足形を外すと何らかのペナルティがあるのだろう。


 前回の回廊では、まさかの正解に見せかけたハズレが用意されていたが、今回はこのシンプルなやり方でいいはずだ。

 そう思うのは、ここまで俺の固有スキル『裏読み』が警告を与えてこなかったからだ。


 ――どうだ……?


 息を呑みながら判定を待つ。

 隣のククルはというと、相変わらずケロッとした顔をしているのがムカついたが、今はそれどころじゃない。


 ――ゴゴゴゴッ!


 地面が揺れてる⁉︎ 条件を外したのか⁉︎

 足の位置を変えないまま体だけをひねり、エレベーターの外を振り返る。


 ――ガラガラガラッ!


 激しい音と共に、地面が崩れ落ちていた。


「さあ、これで逃げ場はなくなりましたね、ダーリン」


 ニヤけるククルの声が合図の様に、その瞬間エレベーターがものすごい勢いで上昇を開始した。

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