◯◯しないと出られない異世界

二回戦【01】『ログインボーナス』

　あー、くっそー腹が立つ。

　なんだこの世界。いきなり人に、バトルなんかやらせやがって。

　しかも相手が、私の初めてもらってください状態から、電撃かましてくる美少女なんて、ラムちゃんでもビックリだわ！

　そんで、俺は人を殺しちまった。いや消したのか？

　俺に撃たれた美少女は、まるでＣＧの様に跡形もなく消えた。

　まあ、自分が殺した相手の死体に直面しなくて済んだのは良かったが、あまりにも現実離れし過ぎている――。

　まるでゲームだ……。そう、この罪悪感の欠如っていうのが、俺は嫌いなんだ。

　だがこれではっきりした――。ここは間違いなく異世界だ。

　しかも『運営』を名乗る、姿の見えないロリババアが仕切ってる最悪の世界。

　とりあえず、一刻も早くここから出るんだ！

　にしても、さっきの出られない部屋に続いて空中に浮かんでいる、

　『◯◯◯◯しないと出られない回廊』

　の文字……。

　またか、クソッ！　あーもー勘弁してくれ。

　――スキル『洞察』！

　あれ……？　さっきはこれで◯◯◯◯が見えたのに、今度は全然見えねえぞ。

　なんだシステム、バグってんのか？　一応、ステータスを確認するか――。

　ＨＰ：３８／８０　ＭＰ：０／３０

　うわっ、いろいろ減ってんじゃん！

　まあ、さっき美少女と命がけのバトルやったから、そりゃ体力も減るわな。

　にしても、ＭＰ０って……。

　そうか、スキルを使うにしても、ＭＰがないと発動できねえのか。

　おそらくさっき銃を『創造』して、『錬成』したとこで、ＭＰを使い切っちまったんだな。

　そう考えると、あれで美少女倒せなかったら、俺、詰みだったのか……。いや、危なかったわ。

　そういえば、俺めっちゃ疲れてるし――、ここはとりあえず休息しよう。

　部屋を出たら、そこいらじゅう壁だらけの回廊になってたけど、これどこまで続いてるかも分かんないしな。

　ＲＰＧなら宿屋で回復ってとこだけど、そんなもん見当たらねえし、その辺の隅っこにでも座ろう――。

　あ、なんか腹も減ってる。

　やっべ、こんなとこコンビニもねえし、この状況が続けば、俺、餓死確定じゃん！

　『ログインボーナス』

　はい？　また空中に文字が表示されたぞ。それに、なんか上から降ってきた。

　よっと！　条件反射で受け取ったが、なんだこれ？

「………………」

　まあ絶句するわ。なぜなら、それは誰もが知っている『バランス栄養食』の黄色い箱だったのだから……。

　おい！　カ◯リーメイト配布で、餓死対策は万全ですとでも言いたいのか、『運営』⁉︎

　しかもログインボーナスとか、ふざけやがって！

　えっ、何かい？　じゃあこの先、連続ログインすりゃ豪華松坂牛でも食わしてくれんのか？

　それにこちとら望んで転移した訳じゃねえし、こんなの強制ログインじゃねえか！

「おいコラ、『運営』ーっ！」

　『シーーーン』

　って、空中にシーンって表示すんなよ！　完全に居留守じゃねえか！

「おい、ふざけんな！　聞きてえ事があるんだ！」

　『メンテ中』

「………………」

　ダメだ。もう突っ込む気力もねえ……。しかも大声出して、余計に腹が減ってきた。

　この際、しょうがねえ。ログインボーナスでもなんでも食って、命を繋がなきゃ。

　――ムグムグムグ。

　ああ、これ水なしで一箱食うのキツイわー。

　カ◯リーメイトに水なしって、マジで『運営』のクソ野郎の底意地の悪さを感じるわ。

　水……。どっかに水ねえかな？

　あっ、近くに水場あんじゃん。

　――ゴクゴクゴク。

　あー、普通の水うめー。ふー、ようやく一息ついたわ。

　ん、なんか水桶にオッサンが映ってるぞ？

　無精ヒゲ生やして、半開きの目に、ちょっと広いデコ――。あっ、これ俺だわ。

　そうかー、異世界来ても、美少年補正とかなしかー。異世界嫌いの俺でも、ちょっとヘコむわー。

　まあ俺、トラックにひかれた訳でもねえし、こりゃやっぱり強制転移させられたって考えるのが順当だな。

　差し当たっての心配は、職場を無断欠勤している事だが、それよりもサイトに投稿した新作ミリタリー小説の方が気になるわ。

　いっくら底辺でも、ブクマ０、ポイント０だけじゃなくて、アクセス０にも激怒した俺だけど、もしかしたら今日ぐらいにバズってるかも……。

　って、現実逃避か⁉︎　にしても現実から一番遠い異世界で、現実問題考えなきゃならねえなんて、どんな罰ゲームだよ……。

　あー、腹が満たされたら、なんか眠くなってきた。

　もう今日は回復のためにも、ひとまず寝よう。

　とりあえず食料問題は、ログインボーナスで解決されそうだし――。

　って、明日ってメンテ明けてるのか⁉︎