◯◯しないと出られない異世界

ワナリ

序章『予選:異世界脱出⁉︎』

一回戦『◯◯◯◯しないと出られない部屋』

 いったい、なんだっていうんだ。

 出口のない、でかい部屋。

 目の前にいるのは、ナイスバディなセクシー美少女。


 そして空中に、まるでCGの様に表示されている、

 

 ――『◯◯◯◯しないと出られない部屋』

 

 の文字。


 …………。状況を整理しろ。なぜこうなった?


 えっと俺は、俺は……俺は?

 クソッ、俺は誰だ⁉︎ 名前さえ思い出せねえ。

 あーもー、なんでもいいから思い出せ!


 えっと俺は、小説家だった。いや、小説家を目指してたのか。

 で、今度こそは、と投稿した本格ミリタリー小説がバズるどころか、かすりもしなくて……つい大声で叫んじまったんだ。


 そしたら光に包まれて……、気が付いたら俺はここにいた。

 なんじゃそりゃ! 訳が分からねえ!


 しかも、あの空中に表示されている『◯◯◯◯しないと出られない部屋』ってなんだ?

 いったい、なんのエロマンガだよ!


 でも、やっぱり……そういう事なのか?

 うわっ! そういえば目の前に美少女がいる事、すっかり忘れてた。

 しかも、めっちゃ俺の事見てるし……。


 まあ、そうなるわな――。あの子がどんだけエロ知識あるか知らねえけど、順当にいったらこれ貞操の危機だもんな。


 しっかし、この部屋なんもねえな。

 もしかして、これマジックミラーになってて、いざ俺が事に及んだら『ドッキリ大成功!』とか、スタッフさんが入ってくる流れとか?


 いや俺、逆ナンされて、それっぽい車に乗った記憶はないし、美少女も企画の女優さんには見えないんだよな……。

 でも最近ずいぶん、「えーっ、こんな可愛い子がどうして⁉︎」っていうのも増えてきたから、あながち可能性がないって訳じゃないよな。


 いやいやいや、どうして発想がそっちにいくんだ俺!

 でも、『◯◯◯◯しないと出られない部屋』なんて、それ以外考えられんわ! しかも四文字だし!


 あー落ち着け、俺!

 あれ? なんか空中に手振ったら、文字が出てきたぞ。

 なになに? ステータス?

 

 HP:80/80 MP:30/30

 

 何これ? なんのRPG? 俺の嫌いな『剣と魔法のファンタジー』ってか?

 こんなの異世界じゃあるまいし……って、異世界⁉︎ 異世界なのか、ここ⁉︎


 いや、そんな訳あるか! 俺は誰よりも異世界が嫌いだったんだぞ⁉︎

 最近のラノベっていったら、異世界、異世界、異世界! 転生! 転生! 転生!

 みんなもっと現実に目を向けろよ!


 いいか。人間がお互いのエゴとエゴをぶつけ合って、銃と銃で撃ち合う。

 撃たれれば回復魔法もねえし、あっという間に死んじまう。


 そんで無数の屍を乗り越えた先に、主人公がたどり着くのは『世界征服』という名の虚無。

 これこそチートもねえ、俺TUEEEでもねえ、リアリティじゃねーか!


 俺が描きたかったのは、そんな世界――。

 ぜってえ、俺の書いた本格ミリタリー小説の方が面白えよ!

 なのに、どいつもこいつも異世界ものばっかり読みやがって……。

 ああ、なんかまたムカついてきた。


「ちっくしょー! こんな世界、俺が征服してやりてー!」


 あっ、思わず叫んじまった。

 うわー美少女さん、めっちゃ引いてるよ。

 どうやって言い訳しよ……って、あれ⁉︎


 今のって――、俺が光に包まれる前に、叫んだ言葉だ⁉︎

 なんか思い出してきたぞ――。そうだ、それから、


『なら、お前の力で望みを叶えるがいい』


 って、女の声が聞こえてきたんだ。

 その結果がこの世界? いや部屋? おいおい、冗談じゃねーぞ!


『やれやれ、やっと思い出しおったか』


 あの時と同じ声だ! でも、どこにも姿が見えねえぞ。

 あと声は可愛いのに、喋り口調がBBAってのが、妙に狙い過ぎててカンにさわるわ!


「クソッ、誰だお前は⁉︎」


 お決まりのセリフだが、ここはそう言うしかねえ。


『そうじゃのう――。まあ『運営』とでも思ってくれればよいわ』


 なんのソシャゲだよ……。ふざけやがって!


「この『◯◯◯◯しないと出られない部屋』って、いったいなんだ⁉︎ これもお前の仕業か⁉︎」


『そうじゃよ』


 あっさり認めやがった。悪ふざけにも程がある。


「いったい何をすりゃ、いいんだよ⁉︎」


『そこは想像力を働かせい。◯◯◯◯は、チョメチョメじゃよ」


 チョメチョメって、昭和かよ……。

 あ、ダメだ。また発想がそっちに向かっていく。


「あのー……」


「――――⁉︎ いや、すみません。思ってません! セで始まる四文字だなんて、絶対思ってません!」


 絶妙のタイミングで美少女が声かけてくるから、思わず本心がダダ漏れた。

 これはヤバイ。さっき大声出したのと合わせて、これ俺の印象最悪だわ。


「スキルを……使えば、分かるんじゃないですか?」


 スキル? それって、さっき見えたHPとかMPとかの類いか?

 どれどれ。あっ、ほんとだ。空中のステータス表示に、まだページがあるみたいだ。

 めくってみるか。なになに……。

 

 スキル:『創造:LV3』『錬成:LV3』『洞察:LV3』etc……。

 

 って、やけにゴチャゴチャとありやがんな。

 うーん。もしかして、この『洞察』ってやつを使えば見れるのか?

 んじゃ、スキル『洞察』ーっ――。


 あっ、念じたら◯◯◯◯の部分が透けてきた。

 一文字目は――『大』?

 うーん、やっぱり『セ』じゃなかったか……。いや、なんかごめんなさい。


 俺は気を取り直して、残りの伏せ字も開いていく――。


「大……願……成……就? ――たいがんじょうじゅ?」


「ああっ、見えたんですね。私、そっち系のスキルはなかったから、助かりました」


 美少女が目を輝かせて、そう言ってくる。

 いやー、それにしてもこの子は可愛いわー。


 ポニーテールの黒髪パッツンに、ボンキュッボンのわがままボディとか、俺の好みにも、どストライクじゃねえか。

 うーん、なんでセ◯◯◯じゃないんだ。チクショー。


「じゃあ、願いを叶えましょう」


 ん? 美少女さんは何を言ってるんだ?

 ああ、大願成就の事? そうか、答えは『大願成就しないと出られない部屋』だもんな。


 でも『大願』って何よ? えぅ、待って。俺、この部屋でミリタリー小説がヒットするまで、ずっと書き続ける訳?

 いやいやそれなら、せめて休憩のためのベッドくらい用意してよ!


 ――ポン!


 あっ、出てきたよベッド⁉︎ 何これ、なんでもありか?

 俺が驚いていると、また美少女が声をかけてくる。


「あなたもきっと『願い』を叶えるために、ここに来たんでしょう?」


 いいえ違います。ムカついて叫んだら、強制イベントが発動しやがったんです――。


「私の願いは……」


 マイペースに美少女は喋り続ける。いや、でもそのモジモジした仕草、超可愛いわー。


「男の人と……恋愛したいなって」


 は? 何これ、ハーレムフラグですか? いや女の子一人しかいないけど。


「私じゃ……ダメですか?」


 いえいえ、あなた俺の超好みです――って、おいおい美少女、いきなり脱ぎ始めたぞ⁉︎

 うわ、ピンクのブラジャーとか、俺の性癖、調査済みですか? しかも、オッパイ超でけー!


「自分からなんて、はしたない女だと思わないでください。でももう私、自分の願いを抑えられないんです」


 うわ、うわ、スカートまで脱いじゃったよ! そんで俺、ベッドに押し倒されちゃってるじゃんか!


 そうか、この子の願いは、誰でもいいから男とチョメチョメしたかったのか。

 こりゃ、四文字はセ◯◯◯じゃなかったけど、結果的には同じじゃないか。


 俺の願いはともかくとして、これでこの子の願いは叶って、この子だけはこのふざけた部屋から出られるなら――。

 うん、とりあえず今はこの美少女の願いを叶えよう。フンス!


「力を抜いてください……。私……初めてだから、優しくしてくださいね」


 はい、善処します。いや、それにしても初めてにしては、手つきが手慣れてる気が……。

 いやいや、今やネット社会。キーワード一つで、あらゆる情報が手に入る時代だ。


 チョメチョメのチョメチョメなんて、いくらでも予習し放題じゃないか!

 しっかし、女の子に押し倒されるのは、さすがに俺も初めての経験だ。


 クソッ、ステータス表示を出しっぱなしだから、美少女の二つのお山が見づらいぞ。

 これ、どうやって消すんだ。ん? まだめくれるページがあんのか。なになに……。

 

 固有スキル:『器用貧乏:LV10』

 

 あーん? なんかムカつくスキルだな。否定できないだけに、胸糞悪い記憶が蘇ってきそうだ。

 ん? あと、もう一個あんぞ。

 

 固有スキル:『裏読み:LV99』

 

「――――⁉︎」


 その瞬間、俺の背筋に悪寒が走った。

 そして見上げた美少女の前には、信じられない文字が浮かんでいた。

 

 願い:『この世の男を全員殺す』

 

 ――やべえ!


 俺はベッドから身をのけぞらせる。

 次の瞬間、激しいスパーク音と共に、ベッドが見るも無惨に黒コゲになった。


「チッ!」


 下卑た舌打ちに、這いつくばったままの俺が顔を上げると、視線の先に悪鬼の表情と化した美少女が、両手の先に火花を散らしていた。

 

 スキル:『電撃:LV2』

 

 『願い』に続き、美少女の前に浮かぶスキル表示――。

 生存本能のなせるわざか、俺は悪寒が走った瞬間、美少女に向けて『洞察』のスキルを反射的に使っていた様だ。

 しかし、電撃ってなんだよ? いきなり魔法発動か⁉︎


「なんで逃げるの? 私に殺されなさいよ」


 美少女の目が完全にイっている。こいつハナから俺を殺す気だったのか――。


「男なんて、みーんなクズ。どいつもこいつも、私だけだって言ってくれたのに……。だから色んな事いーっぱいしてあげたのに、結局この体だけが目当てで、やる事やり尽くしたら、ポイとかひどいよね!」


 片乳出しながら、すごい事言い出したぞ……。

 でも、そんな過去があったなら、さっきの手慣れた手つきにも納得がいく。


「アンタだって同じじゃない。私とタダでヤれちゃう。ラッキーって思ったんでしょ?」


 申し訳ない――。それは否定できない。


「男なんて、みんな死んじゃえばいいんだ。だから私、叫んだの――。『この世の男を全員殺したい!』って……」


 ちょっと待て、それって⁉︎


「そしたら、『なら、お前の力で望みを叶えるがいい』って声が聞こえたの。それから私は光に包まれて、この部屋に来たの――」


 ――俺と同じじゃねえか!


「最初は訳が分かんなかったけど、『運営さん』がステータスとスキルの見方を教えてくれたの。それからアンタが来て、この部屋の意味を解いてくれたから――」


 おいおい、待て待て!


「私はまずアンタを殺して、願いを叶えてこの部屋を出る! それから、外の世界の男を殺して、殺して、殺し尽くしてやるの! だからアンタ、さっさと私に殺されなさいよ!」


 言うなり、また電撃が飛んできた。もう戦うしかねえ様だ。


 ――なんか俺にも魔法が使えるのか?


 スキル、スキル、スキル。あー、攻撃が激し過ぎて、俺がなんのスキルを持ってんのか全然、確認できねえ!


「死ねよー!」


 今度は剣が飛んできた。あの美少女、どっから剣なんて出してきたんだ?


 開きっぱなしの俺のステータスを見ると、HPが減っている。

 そりゃ、このだだっ広い部屋を必死に逃げ回ってんだから、体力が削られてんだろうな。


 クソッ! 『剣と魔法のファンタジー』、それと『異世界』全否定の俺が、それに殺されんのか⁉︎

 いやいや冗談じゃねえ! 考えろ! 現状で最適解な手段を。

 でも思い出せるスキルは、さっき使った『洞察』と、最初に見た『創造』と『錬成』だけだ……。


 いや待てよ!

 あの美少女が、いきなり剣を出してきたって事は――、剣を『創造』して、それを『錬成』したって事じゃねえのか⁉︎


 イチかバチかだ! 魔法が使えねえ、いや使いたくもねえ俺が考えうる、もっとも効率的な物理攻撃を――。それを創造するんだ!


 剣――? いやいやリアル最強は――銃だろ!


 ――『錬成』ーっ!


 念じた次の瞬間、俺の右手にリボルバー式の拳銃が握られていた。

 そして、それを前に向け――ためらわずに引き金を引く。


 ――パーン!


 美少女の胸の真ん中から、血が吹き出した。


「な、なに……ひどいじゃない!」


 痛みではなく、俺という『男』からの反撃に、美少女は叫びを上げる。


「男なんて、男なんて、男なんてーっ!」


 美少女の両手が、これまでにない放電を起こしている。確実に次の一撃で、俺を殺る気だ!


 なぜかその時――、俺にもこの部屋を出るための答えが分かった。


 ――こんな世界、俺が征服してやりてー!


 絶望の果てに、口にした叫び。

 空いた左手で、ステータスのページをめくっていくと、最終ページにそれはあった――。

 

 願い:『世界征服』

 

 やっぱりか――。

 それなら俺にとってこの部屋は、『世界征服しないと出られない部屋』だ。

 だが美少女は俺を殺したい――。

 残念ながら、俺たちの願いは相容れないものだった。


「死んじゃえーっ!」


 美少女が電撃を放とうと叫んだ瞬間――、その体が後ろにのけぞった。

 俺が銃で――、左胸を撃ったからだ。

 続けて右胸、腹、そして額と、銃を連射する。


 その度に、艶やかな下着姿の美少女が、ダンスを踊る様によろめいていく。

 そして五発撃ったところで、弾丸はなくなった。

 俺が錬成したM36という拳銃は、五連発だからだ。


「男なんて……おど、ご、なんで……」


 美少女の声にノイズが混じっていく。

 それだけでなく、その体にも映像の様なノイズが刻み込まれていくと――、次の瞬間、美少女はその場から跡形もなく消えてしまった。


「はあ……? どういう事だよ?」


 思わず声を上げる俺に、


『うむ。まずは小さな『世界征服』、成就という事でよいじゃろ!』


 またどこかから、あのロリババアまがいの『運営』の声が聞こえてきた。


『さあ、この部屋を出るがよい』


 見れば、壁の一ヶ所にいつの間にか扉ができていた。

 俺は何も答えない。かといって、このふざけた部屋に残る気もない。


 剣と魔法のファンタジーの異世界? だが今、俺が手に握っているのは銃だ。

 クソッ! 俺はこんな世界、認めねえ――。しかも『世界征服』だなんて。


 この扉を出た先に、いったい何があるっていうんだ?

 とりあえず分かっている事は、ただ一つ――。


 絶対に俺は――、この異世界から抜け出してやるという事だ!

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