溶けていく不穏 壱・五
九月下旬、夏は腐敗しきり、残り火がゆっくりと枯れ葉となって落ちる季節になった。
私は最終確認として、彼に小説を読んでもらっている。私は緊張感と不安に揉まれながらも、彼が最後のページを読み終えたところを見届けた。
しばらくの沈黙が流れ、その緊迫感に耐えきれず、私が口を開きかけたところで、彼は微笑みを浮かべ、頷いた。
「これなら、最低でも入賞はできるかと」
その言葉に安心感が全身を冷やした。
「じゃ、じゃあ、とりあえず一段落したってことだよね。」
「まあ、まさかこんな短時間で送るところまで持っていくとは思わなかったけど」
「うん。そのありがとう。ここまで付き合ってくれて……」
私がそう言うと、彼はどこかで気恥ずかしげに頬を掻き、目を逸らす。そこでずっと思っていた疑問を聞いてみた。
「そういえば、どうして壱露君はここまで手伝ってくれたの?」
「暇だから」
まるで私の質問を待っていたかのように、即答だった。しかし、彼は暇だからといって自分の時間をさくほど寛容さは持ち合わせていないように感じた。無理やり誘えば、来てはくれるが、どこか苛ついた様子が隠せていないことが多い。だからこそ、納得がいかなかった。
「本当に?」
私が訝しげに問いただすと、彼はさらに私から視線を逸らした。そして、じっと私が見つめてくるのに耐えかねたのか、深く溜め息をついた。
「僕はただできることやっているだけ。それにしても、これで安心した」
彼は私の小説をスクロールしていって、静かに微笑んだ。何かの区切りをつけたような、彼のその言葉が妙に引っかかった。
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