第8話 悪友共よ、表に出ろ
私がハンバーグを食べ終える頃には事件が起きた席は既に掃除されていた。私はその席の前を通る、靴の裏をゆっくりと擦りながら。
きれいに拭いたものだ。予想ではまだツルっといくかと思っていたが…。おっと、この辺は拭かれたことで少し馴染んでるな。
支払いをして店を出た。
「よぉ、遅かったな」
駐車場で木倉が腕組みして立っていた。
「十分後だったな。時間は守ったはずだ」
「たった今十一分たった。さぁ、早く始めるぞ」
さっき休憩時間まで十分と言っていたのに。こいつ…早めに休憩に入ってここで待ってやがったな。なかなか不真面目なバイトじゃないか。
「そうだな、始めよう。もう手遅れかもしれないが…何もしないよりはずっといいだろう」
こいつはあの三人と面識があるみたいだし。ならば、きっと上手くやってくれるはずだ。
「木倉。席を見たと言っていたな。どこまで覚えてる?」
今はこいつの視力と記憶力を信じるしかない。
「話した通りだ。床が濡れていた」
「それだけか?」
「それだけかって…。んー。確か、ちっさい水たまりみたいのがあって、たぶん乃木はそれを踏んで転んだんだろう。そんで、料理が乗ったおぼんをテーブルの角にぶつけて四方八方にぶち撒け……お?」
何かに気がついたようだ。
「テーブル側にはパスタやら何やらが落下したが床にはコーンスープがこぼれてた。なのにスープは水たまりを浸食しなかった、だから俺はそこに透明な水たまりがあると認識することができたんだ。この特徴を持った液体……待て、心当たりがあるぞ」
木倉はガンマニアだ。こいつの家に遊びに行ったことがある。リビングの床がトイガンやらミリタリー雑誌で埋もれており足の踏み場もないほどだった。そのとき私はローテーブルの下に置いてあった缶について尋ねた、「これは何に使うんだ?」と。そしたら木倉は「銃の手入れに使うんだ」と言ってそれの特性について事細かに語ったのだ。
私達は答え合わせをする。
「ありがとな、立川。確かにあいつらが考えそうな証拠品だ。終わり次第報告する、後は任せてくれ」
「了解した」
良き悪友に後を託し私は駅へと向かった。
自宅に帰って来てリビングでヒーターに当たりながら本を読んでいると木倉から電話がかかってきた。
「やぁ。どうなった?」
「ああ、あの後あいつらに電話して店の裏に呼び出した。やっぱり撮ってやがった。幸いネットに投稿はしてなかったから完全に消去して、ちょいと脅しをかけておいてやったさ」
「そうか。お前、一体あの三人とどういう関係なんだ?」
木倉は一瞬黙ったがすぐに白状した。
「…あいつらはただの後輩だよ。中学のとき一個下だった。まぁ、ちょっくら可愛がってやってただけさ」
不穏な響きだ。しかし警察沙汰にしたくなかったということはそれなりに仲が良かったのかもしれない。……ちょっと待て、後輩だって?年下だと!?…あれがが!?
「それと、あの水たまりはシリコンだった」
シリコンは基本的に水や油とは混ざり合わないし乾いたらもちろん、乾いてなくてもけっこう滑る。それにしてもつまらないことを考えたものだ。あともう一つ…。
「なぁ木倉、料理を運ぶのがロボットじゃなかったのはなぜだ?」
スマホから嘲笑が聞こえてきた。
「ああ、あのポンコツか。壊れちまったってよ」
左様ですか。まったく、料理を乗せたまま走り出したときには正直かなり焦ったぞ。まさかロボットとかけっこすることになるなんてな。
さてと、続きを読むか。
私は本のページを操り再び物語に浸った。
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