第33話 幕間の幸せな時間

「それで、あんなところでノーランさんと2人で何してたですか?」

「え?」


ミーナとナタリーと3人で川の字になりふかふかな布団に包まれて、いよいよ明日に備えてねるぞという時に突然右隣のミーナが尋ねてきた。


「別に何もしてませんわよ」

「何の話ですか?」


今にも寝そうだったナタリーもポヤポヤとした声で左側から会話に参加してくる。


「いやですね?さっきレヴィアナさんとノーランさんが見当たらなくて探しに言ったじゃないですか?そしたら何やら2人きりでお話ししてたですー」

「へ!?ノーランさんと!?へ!?」


突然覚醒したのか体勢を起こしながら変な声を出すナタリー。


「ミーナさん、どういうことですか?」


ナタリーはもっとミーナの話を聞こうと私の布団まで浸食して乗り込んでくる。


「いや、だからですね。開けた草原で二人隣同士で座って話してたですよー?」


ミーナもナタリーに話しかけるために私の布団に乗り込んできて川の字が狭まって行く。


「なんでもないですわよ。故郷についてちょっとお話をしてただけですわ」

「ほんとですかー?」

「本当ですわよ。それよりー、ノーランの事をそんなに気にするなんて、ナタリー、もしかして……?」

「え!そ、そんなんじゃ……!!違いますよ!!」


私からの反撃を予想していなかったのか、ちょっと顔を赤くして慌て始めるナタリー。


「ナタリーさんはマリウスさんですもんねー」


私にかぶさりながらミーナも攻撃に加勢する。


「確かに!最近一緒に夜な夜な訓練場で2人きりで何かしてますものねー」

「いや、だから……それはマリウスさんに頼まれて氷魔法を……」

「今日の氷菓も2人の息ぴったりでしたですよ!」

「ち、違います!ソフィアさんが全部準備してくれてて……。あ!それを言ったら最近ミーナさんもセシルさんと2人で良く一緒に居ませんか?それにレヴィアナさんだって―――」

「でもマリウスさんとアリシアさんも結構仲良くないですか?」

「ちょ、ちょっと!無視しないで下さいよ!」

「確かにそうですわね。そうなったらわたくしたちはどちらを応援したらいいのでしょうか」

「もーっ!違うってば!」


ナタリーが立ち上がり、そのまま私たちの顔にかぶさってきた。突然の物理的な反撃にミーナと二人で「ぐえ」と変な声を出してしまう。


「まったく……」


ナタリーはふぅっと一息つくと、そのままゴロンと自分の布団に寝転がった。


「ぷっ……!あははは!!」

「ふふっ、くすくす……!」


思わず笑いが込み上げる。そんな私を見てミーナもクスクスと笑い始める。


「怒ったナタリーも可愛いいですわね」

「もー!本当に嫌いです!」


そう言って背中を向けてしまった。ナタリーがこんなことをしても可愛いだけだ。ナタリーの頭をポフポフと優しく撫でると、そのままされるがままに頭を撫でさせてくれた。


「ねぇ、レヴィアナさん」

「ん?」


背中を向けたままナタリーが口を開く。


「こうやってみんなで色んなところに遊びに行けて、私とっても楽しいです」

「……」


私もミーナも言葉を発せずに、ただナタリーの声に耳を傾ける。


「本当に、この学校に来て、皆さんと出会えてよかったです」


そう呟いて、ナタリーは体をこっちに向けて撫でていた私の手を握った。


「ミーナもですー!一緒に遊んだり、勉強したり、こうやって同じベッドで眠ったり……。みんなでワイワイするの楽しいです!」


ミーナもこっちを向きながら同じように右手を掴まれる。


静かになった部屋にはかすかに川の流れる音と、2人の呼吸の音だけが響く。

さっきノーランとあんな話をしたからか、微睡みながら妄想が広がっていく。


(実際に誰かと付き合う事になったら私は誰と付き合いたいんだろう?)


ノーランには申し訳ないけど、きっとアリシアはあの4人の誰かと年末の舞踏会で付き合う事になるはずだ。でも嫌な言い方をすると残りの3人はフリーのままという事になる。


(でも……もしかして……?)


ノーランの存在は本当にイレギュラーなはずだ。もしかしたらその勢いでアリシアとの仲が急進展する事もあるんじゃないだろうか。


この世界のエンディングの一つとして、【貴族主義】や【貴族と平民の平等】が本格化した中で平民のアリシアが貴族と結ばれ、関係改善の第一人者として崇めたてられてハッピーエンドになって終わる、というモノがある。


しかしそれはトップクラスの貴族であるあの4人と平民のアリシアが結婚するというセンセーショナルな出来事だから成立する話だ。もし平民同士のアリシアとライリーが結婚してもそんなことが起きるはずもない。


(あら……でもその理屈だったら私とライリーが結婚してもいいって事……?)


『レヴィアナ』は父親を三賢者に持つとびきりの有名人だ。貴族度の様なもので言えば攻略対象の4人よりも高いかもしれない。


(いや、無い無い、そんなの)


そんな妄想をしている自分に笑ってしまう。

私は誰とでも結婚できるならライリーよりも私の人生を救ってくれた攻略対象の4人と結婚したい。


以前よりもより具体的な妄想が頭の中に広がっていく。


イグニスとはやっぱりウマは合うみたい。

お互いべたべたとした関係にはならなそうだけど、仲がいいときは仲良く喧嘩して、お互いの機嫌が悪いときは機嫌悪く言い争ったりして。しばらく口は利かないんだけど、それでも自然と一緒に出掛けたりして、手をつないだりできるんだろうか。


マリウスと結婚しても面白そうだ。

ゲームの中ではあれだけ失敗をしない天才だったマリウスもこうして知り合ってみると意外と不器用なところも見えてきた。

例えば私がアリシアに習ったお菓子を作って、でもきっと私はよくわからないからたくさん失敗して、それでも気を使いながら失敗したお菓子を食べてくれる気がする。「甘いから美味しい」みたいな慰めにもなってないセリフを沢山言うんだろう。


セシルとはずっと旅をしているかもしれない。

セレスティアル・アカデミーの卒業後は自由気ままにフェアリス・アルカディアの世界を歩きまわっている気がする。

地図とかも何も持たずにずっとうろうろして、そのうちあまりの連絡のつかなさに実家に怒られて、でもまた目を盗んで旅に出て……そんなのもとても楽しそうだ。


ガレンとはなんか深そうで、でもどうでもいい話をずっとしてそうだ。

一生懸命ご飯を作って一緒に食べるんだけど、今日見つけた新しい文献がどうこうって言いだして、「せっかく私が作ったんだからちゃんと食べてよ!」とか文句を言うんだけど、それでもガレンが話す文献に興味が湧いちゃって「で…?続きは…?」なんて言ったりして。


別にすぐに結婚なんてしなくてもいい。

生徒会のメンバーで飽きるまで一緒に暮らしても面白いかもしれない。


楽しい妄想がどんどん膨むが、2人の体温が心地よくて瞼が自然に重くなって来る。

どこからが思考で、どこまでが妄想で、現実か夢かもわからなくなったころ、私の意識も闇に消えていった。

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