第12話 混乱
カスパー先生は各々に答案用紙を返却し、教室に上位の順位表と点数を張り付けて去っていった。
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1:レヴィアナ・ヴォルトハイム
2:マリウス・ウェーブクレスト
3:イグニス・アルバスター
4:ガレン・アイアンクレスト
5:アリシア・イグニットエフォート
6:ナタリー・グレイシャルソング
7:セシル・ブリーズウィスパー
8:カムラン・エミーナルキャスト
9:カイル・タドリーニ
10:レオナ・ファイローニ
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「ナタリーさんは裏切者です……さっきは出来なかったみたいなこと言ってましたです……」
「ちが……っ、たまたま、たまたまですよ!」
ミーナがナタリーをじとーっとした目で見つめている。
「やっぱり勝てねぇか。やっぱすげぇなぁ」
今度はさっきの様に胸倉をつかまれることなくイグニスに声をかけられる。
「僕たち勉強でレヴィアナに勝ったことないからねー」
「とはいえセシル、お前はもう少し勉強したほうがよいのではないか?お前後半の問題にはほとんど手を付けずに無詠唱の練習をしてたろう」
「さすがマリウスは目ざといねぇ。ガレンとはもうちょっと点数近いと思ったんだけど」
「いやぁ、いくら俺でもセシルみたいに才能で魔法使ってるやつに勉強では負けないだろ」
教室の隅に集まりワイワイと盛り上がっている。
「みんなすごいですねー……。あ、このアリシアさんってセシルさんたちとおなじチームだった方です?」
「あ、そうそう。あ、アリシア!君もこっちにおいでよ!」
マリウスに声をかけられおずおずとアリシアが入ってくる。
「先ほどのアーク・スナイパーの時も随分と助けられたし、誰か有名な先生に習っていたりしたのか?」
「いえ!私、そんな魔法の先生をお呼びできるほど裕福では無かったので。お母さんに基礎を習って後は独学です!」
「そういや俺様と同じ火属性だったよな?あのヒートスパイクの術式の構成とかも自力で習得したってことか…?」
「はい!最近ようやく狙いを付けられるようになったところです。イグニスさんの無詠唱魔法、あんなの私初めて見ました!とっても素敵でした!!それにマリウスさんのあの圧倒的魔法の放出力も!!セシルさんのあの手に固定してのエアースラッシュも、ガレンさんのあの土魔法、私初めて見ました!!!」
アリシアは興奮した様子で目を輝かせている。
「あ、あはは、私ばっかり話してしまいすみません。皆さんの様な素晴らしい方々と知り合うことができて少し舞い上がってしまいました」
ミーナとはまた違う、それでも一気に明るい雰囲気になってしまうような、そんな魅力が彼女にはある。声を発するとそこだけ花が舞い散るかのようなオレンジ色のオーラに包まれるように見える。その中で「マジか…独学であんなにできんのかよ…」と少しへこんでいるイグニスがなんだかおもしろかった。
「私ちゃんと教わったことがないので、イグニスさんの無詠唱魔法も教えて欲しいです!」
「そりゃもちろん構わねーぜ。みんなを導くのも俺様の役目だからな」
「あの!セシルさん!そしたらミーナにもセシルさんのシルフィードダンスの術式を教えて欲しいです!」
「レヴィアナチームの子だよね。そうそう、僕も気になってたんだ。君のシルフィードダンス面白い構築方法してるんだよねー」
「俺もそのレヴィアナチームの氷魔法には興味がある」
「あ、は、はい!ナタリーです!マリウスさんの水魔法もマナ効率が……」
(うんうん、仲良きことは素晴らしき哉だよね)
ついついみんなが盛り上がっているところを一歩引いて眺めてしまう。混じりたい気持ちもあったけど、それよりもなんだかこのいままで夢見ていたみんなが自由に動き回っているのを見ているだけでうれしくなってしまう。
……それになんだか私だけ場違いな気がして仕方がなかった。
「お、さっそくみんなで仲良くなってるんだな!良いことだ」
セオドア先生が嬉しそうにやってきた。
「ふむ、みんないるね。ちょうどいい、君たち、生徒会に入らないか?」
その一言に、一気に教室内がざわつき私たちの方に注目が集まる。
「わぁ!セシルさんたちすごいです!」
「君もだよ、ミーナ」
「へっ?」
「今回生徒会に推薦したいのは、レヴィアナ、イグニス、マリウス、セシル、ガレン、ミーナ、ナタリー、そしてアリシアだ」
「わ、私もですか!?」
アリシアが自分を指差しながら驚いている。
「もちろん。もちろん辞退も出来るけど参加してもらえると嬉しいな」
「先生!俺反対です!」
突然クラスの中で見知らぬ男子生徒が机を叩き立ち上がると、アリシアを睨みつけたままこちらに近づいてくる。
「そいつ、平民ですよね?イグニス様や名家の方々ならまだしも平民が生徒会になんて、俺納得いきません!」
「俺もです!それとも例の【貴族と平民の平等】というやつで生徒会にも平民を入れるんですか!?」
それに同調するように他の生徒が立ち上がると抗議をはじめる。
「このセレスティアル・アカデミーでも……あの悪法が?」
「私もそんな理由で平民に仕切られるのは嫌ですね」
「先生!もっとちゃんとした理由で生徒会にふさわしい人材を推薦してください!」
みんなが口々に不満をぶつけ始める。
「ふむ、納得がいかない人たちもいるみたいだね。それに何人かはこのセレスティアル・アカデミーの理念について誤解している子たちもいるみたいだ」
そう言うとセオドア先生は不満を言ってきた生徒たち一人ひとりと視線を合わせ、少し考えてから口を開く。
「おそらく君たちは今までご両親からそう言った教育を受けてきたのだろう。今まで俺たちやもっと上の世代が作ってきた文化だ。君たちがそう思うのも分からなくはない」
「ですが……」
「貴族かどうか、平民かどうか、それ以外にも教育、才能、色々あると思う。でもこのセレスティアル・アカデミーでは魔法の元に平等でありたいと、ナディア先生も俺も思っている」
みんなの視線がセオドア先生に集まる。
「この学園で魔法についてしっかり学んで、成長して、それで卒業してからその能力を生かして、貴族も平民もなく世界をより良くしていってほしい」
そう言ってから彼は一人一人と目を合わせながらクラス全体に語りかける。
「アリシアを選んだのもシンプルに試験の結果が素晴らしかったからだ。アーク・スナイパーの成績はトップだっただろう?」
「それは……それは、ウェーブクレスト家のマリウス様とブリーズウィスパー家のセシル様と同じチームだったから……ではないでしょうか!」
不満を言ってきた生徒の一人が叫ぶ。だが、セオドア先生は首を横に振りながらその意見を否定した。
「俺はそうは判断しなかった。それに、このカスパー先生の用意した試験でも、ここにいる多くの人よりも優秀な成績をおさめている。これで……理解できたかな?」
『5:アリシア・イグニットエフォート』の文字を指さしてセオドア先生がゆっくりと諭すと、その生徒はがっくりと肩を落として、「……っ!!わかり……ました……」と席に座った。
「それに今回は推薦しに来ただけだ。当然自薦も出来るから、君たちの中でも参加したい人がいたら手を挙げてくれ」
セオドア先生はそう言ってにっと笑った。
「まぁ、入学初日でいきなり立て続けに試験で色々ストレスもあるだろうが、これから一年一緒に過ごす仲間たちだ。みんなで仲良くやろう」
セオドア先生はそう言ってにこやかな笑みを浮かべる。
全員が完全に納得した様子は無かったが、しぶしぶと言った様子で席に着き直した。
「先生、すみません。その前に……お前」
沈黙を破ってマリウスが一人の生徒を指差した。
「お前さっきアリシアの事を平民と言うだけで見下すような発言をしたな?お前ももし生徒会に入ろうというのであれば俺には止める権利はないが、まずはそのことをしっかり謝ってからにしてほしい」
マリウスはそう言うとその生徒を睨みつける。
「マリウスさん……私は別に……大丈夫ですよ?気にしていませんから」
「いや、こういったことはしっかりやっておいた方がいい」
「うん、そうだね。僕も別にここにはブリーズウィスパー家として来ているわけじゃないからね。あーいった感じはやめて欲しいかな」
これまでずっとにこやかに話していたセシルも露骨な不快感をその生徒にぶつける。
「セシルさんも……」
マリウスとセシルに言われ、その男子生徒はバツの悪そうな顔をするとアリシアの前で頭を下げる。
「すみま……せんでした」
「あ、あの、本当にいいですから!大丈夫です!気にしていませんから!」
アリシアは「頭を上げてください」と恐縮している。
「それはアリシアが優しいからそう言っているだけで、俺たちはとてもじゃないがそれを見過ごすわけにはいかない」
「うん。もうああいったのはやめてよね」
「あ……っ……は、はい、本当にすみませんでした……」
そう言って彼は再び謝罪をして席に座った。そのあともいくつかのやり取りはあったものの、それ以降、この場で明確な不満を口にする生徒はいなかった。
その後、ノーラン・パイロクインが生徒会に立候補した。
アーク・スナイパーの時にイグニスと同じチームだった彼は、後から聞く所によると、イグニスの魔法に興味を持っているとのことだ。イグニスと同じ生徒会に入れれば何かと接点が作れるのではないかと思ったのが立候補の理由らしい。
「もちろんだ。やりたいという人を邪魔する文化はこの学園にはないからね」
「あ!ありがとうございます!」
「それではほかにはいないかい?……ふむ、このクラスにはいないようだね。では君たちは先に式典会場で準備があるから着いてきてくれ」
そう言って先生はクラスから出ていった。
私は席から立ち上がりながら一人腕を組んで唸る。
(生徒会にはアリシアと4人だけがなるはずだったのに……。ほかのキャラクターや私まで……。もしかして……筆記試験で1位を取ったから……?)
これからのイベント準備など生徒会としての活動を経てアリシアと攻略対象は交流を深めていく。
そこにこんなに大人数が居たら邪魔ではないだろうか。今からでも辞退するべき……?でもミーナやナタリー、ノーランというまた知らないキャラクターも参加してしまった。私一人辞退しても意味がないかもしれない。
(どうすればいいの……?)
やっぱりさっきの【答え】を知ってしまったから?それとも私が自分で解かなかったから……?だんだんと頭がぐしゃぐしゃになる。
「おい、何してんだ?行くぞ?」
イグニスが私に声をかけてくる。
「えぇ、今行きますわ」
今考えても仕方ないかと思い、とりあえず式典会場へ向かうことにした。
***
「むかつく……。あの平民の女……」
男は一人廊下でぶつぶつと呟きながら歩いていた。
「俺を差し置いてなんであんな平民が……っ!試験もたまたまマリウス様とセシル様とチームになったからだ……。試験もあんな問題平民が解けるわけがない……!絶対に何か不正をしたに決まっている……」
男は歯ぎしりをしながら廊下を歩いて行く。
「そもそも魔法だって平民があんな協力な魔法を使えるわけがないんだ……。まずはあいつの事を調べて徹底的に調べ上げてやる……。それで弱みを握って……」
ぶつぶつと呟きながら歩いていると、目の前に2人組の男が現れた。
「ねぇ貴族様。ちょっといいっすか?」
「なんだ貴様ら……」
突然現れた男たちに警戒心を強めたようだった。
「貴族様、あの平民のアリシアとか言う女、ムカつきません?」
「なんのことだ……?」
「とぼけないで良いっすよ。俺たちも貴族様と同じ気持ちなんで。あの女をぎゃふんと言わせたくって。協力しません?」
「お前たち平民だよな?お前ら如き平民が何ができるというんだ」
男は馬鹿にした様に2人組の男を見下だす。
「そうなんですよ。俺たち平民だけじゃどうにもできそうにないので、だから貴族様、手を貸してもらえませんか?」
「……何を考えているのか知らんが……ふん、まぁいい。あの平民の女がこのアカデミーから排除されるのであれば協力しようではないか」
2人組はニヤリと笑う。
「ありがとうございます!それじゃあ……」
そうして2人は3人になり、男たちの企みは少しずつ、少しずつ大きくなり始めていた。
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