第9話 どうして?
「――――雷光の連鎖、我が指先に宿りて無限の鎖となれ!閃光の縛め、ライトニングチェイン!!!!」
魔力が収束した雷が風船にめがけて突き進み、次々と風船に帯電していく。私のライトニングチェインは狙った複数の標的に魔力が連鎖的に拘束していく魔法だ。本来の使い方ではないが、このアーク・スナイパーという競技にはある意味最適だと言える。
「氷河の刃、我が意志に呼応し突き進め!鋭き氷の矢、アイシクルランス!」
ナタリーが放った氷の槍は正確に風船の1点を的確にとらえ、次々と氷の刃が風船へと突き刺さっていく。
「空を切り裂く鋭利な刃、我が手中に集結せよ!疾風の剣、エアースラッシュ!」
ミーナは身軽な体を生かし風船に近づき、至近距離で魔法を手中にため込み、目の前の風船に対して一気に炸裂させていく。
「おいおい…あいつらすごくねーか?」
「本当だ。なんであんなに簡単に割れるんだ?」
次々に風船を割っていく私たちのチームに周囲は感嘆の声を漏らしていた。
(よし―――作戦通り――――)
***
イグニスのチーム以降は、1つの風船すら割ることができなかったチームが続出した。
(まぁ……そうよね……)
もともとゲームでもチュートリアル的な位置づけでのイベントだ。当てれば成功、1つでも割れれば大成功の部類に入るだろう。
でも私たちはこれから15個以上の風船を割って、イグニスよりも良い順位をとらないといけない。
ゲームの悪役令嬢、レヴィアナは時に満点を出してヒロイン、アリシアを邪魔してきていた。
しかしまだ自分の魔法も制御できていない私はきっと15個の風船を割るなんて無理。
……でも3人で協力すれば何とかなるかもしれない。
「お二人とも、魔法の命中精度はどのくらいでして?」
「私氷魔法なら……あの風船くらいなら狙えると思います。でも、水魔法だと……正確に狙うのは……」
「むむむー……ミーナはちょっと自信ないですー……」
「シルフィードダンスは使えまして?」
「それなら大丈夫です!得意なのです!」
うん。じゃあいくらでもやりようはある。私はこのゲームクリアのコツを知っている。
「わたくし気づいたんですけども、あの風船弱点があるみたいですの」
「弱点……ですか?」
「ええ、これまで割ることができたチームを観察していますと……。あの風船、ある程度の魔力を吸収することはできるようですが、許容量を超えると風船の下の部分がもろくなるみたいですわ」
これまで、どころではない。何週も、何十週も、それこそセリフを勝手に覚える程やり込んだゲームだ。
「わたくしが魔力を放出してあの風船に魔力を帯電させますので、その間に2人には破裂させる役をお願いしますわ!」
そういうとナタリーとミーナがコクリと頷いた。
「さすがレヴィアナさん……。私そんな事全く気づきませんでした」
「うー……。でも下の部分ですかー……。私うまくねらえますですかねー……」
心配そうにこちらを見つめてくるミーナに私は笑顔で返す。
「そんなの……自分から近づいて至近距離から思いっきり放てばいいんですわ」
***
(よし……思ったとおり、成功してよかった……!)
私の放った魔力は次々に風船に連鎖して20個すべての風船に魔力を滞留させ、その間にミーナがシルフィードダンスで駆け回り、ナタリーが矢継ぎ早に正確に氷魔法詠唱し、それぞれ魔法を風船を破裂させていく。
(……13……14……よし……!)
これでイグニスたちと並んだ。そしてまだ時間は――――っ!?
「ごめんです……もう……私……」
「はあっ……はあっ……ん……っ」
見ればナタリーもミーナももう魔力が尽きかけて手を膝についている。
無理もない。2人が割った風船はそれぞれ7個。1組目は3人の全魔力を使っても1個割るのが限界だったことから考えても大健闘だろう。
……それでもまだイグニスに並んだだけだ。
(やだ……!負けたくない……!)
イグニスに見てもらいたい。ずっと私の支えだったイグニスに……!!!
その刹那、口が、体が勝手に詠唱を始めていた。
「はぁぁぁっ!!!天空の雷光よ、我が意志に従え!煌めく一撃、サンダーボルト!!!!!!」
手中に現れた膨大な量の電気の渦が一直線に風船へ飛んでいき、そしてそのまま風船に風穴を開けた。
15個目の風船を破裂させたところでセオドア先生の「終了」という声が森の中に響いた。
一瞬の静寂のあと、私たちが割った風船の数に会場がどよめく。
それまで息も絶え絶えといった様子で座り込んでいた2人も、呆然と立ち尽くしていた私も我に返って歓声を上げた。
「レヴィアナさん!!すごい!すごいです!!なんですか!?今の魔法!!」
「すごいです!あんな魔法初めて見ました!」
ミーナもナタリーもそのまま興奮冷めやらぬまま駆け寄ってくる。
「私!やった!!わたくしも……自分でもびっくりですわ!!」
興奮気味のミーナに抱き着かれて、私もナタリーと一緒にはしゃいだ。
「さすがはグレイシャルセージ様の弟子と、『雷光の綺羅星』レヴィアナのチームということかな?15個、君たちが暫定トップだ」
(やった!やった!やった!!)
これでイグニスたちのチームを抜いた。イベント通りだったらこれでイグニスの好感度も上がるはず。
さっきの体育館では訳も分からず抱きしめられてしまったけど、今度はこの勢いで私から抱き着いてみたりして!そう思ってイグニスの方に振り返って―――――
「っざっけんなよ!!!何のつもりだ!!レヴィアナ!!!!」
私は怒声にと共にイグニスに胸ぐらをつかまれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます