第6話 リリカ、冬のペンションに閉じ込められる

リリカと住宅街にあるカフェに行った。

店員がやたらカッコいい。


「リリカ、顔の好みはないの?」


「顔ですかぁ。食べた人間も含め、一度見たら忘れないのですが、好みはないですねぇ。」


さらりと怖いことを言った。



―― ―― ―― ―― ――


店を出ると、親子とすれ違った。


するといきなり、「熊だ!」と声が聞こえた。


振り返ると、路地から出てきた熊が、親子に向かって走ってくる。


リリカは熊に向かって走り出した。

熊の顎にハイキックをかます。

よろけたところで、頭の横に回し蹴りをいれた。


熊は倒れた。


―― ―― ―― ―― ――


リリカは素手で熊を倒したことで、さながら名探偵アニメのヒロインのごとく、格闘女子高生(その時も制服チックな服装だったため)としてニュースになった。


実は、髪を先に伸ばして、熊の神経を殺していたらしい。

キックはパフォーマンスだ。


地下アイドル、リリカは一躍有名人になった。



―― ―― ―― ―― ――


「本格的に格闘系でやったらどうかな?そうすれば、髪芸をカモフラージュできる気がする。」


「うーん、相手が熊だからうまくいきましたが、相手が人間だと手加減が難しすぎます。」


リングがいきなり殺人現場になってしまうか。



「格闘系アイドル、結構いいと思うんだけどな。」


エゴサーチをすると、


リリカ 熊

リリカ 地下アイドル

リリカ 歌 下手

リリカ 歌 かわいそう


と出る。

何か新しいキャラづけがほしいところだった。



―― ―― ―― ―― ――


「アイドル友達から、お兄さんがやっているペンションが10周年記念だから、遊びに来てと誘われました。」


「ああ、いいんじゃない?行ってらっしゃい。」


「修学旅行以外のお泊まりは初めてで、不安なのでついて来てくれませんか?」


リリカに言われて、リリカの兄としてついて行った。



―― ―― ―― ―― ――


冬の山奥のペンションに入ると、俺たちの他に4組の泊まり客がいた。


中年夫婦。

女の子3人組。

男3人組。

友達同士らしき高校生の男女だ。


アイドル友達は彼氏と来ていて、オーナーの兄夫婦の手伝いをするらしい。


高校生の男女は、彼氏の友人らしい。

さらに、この高校生の男女は、男3人組の一人と知り合いで、その人は刑事らしい。


たまたま知り合いの刑事が冬のペンションにいるなんて、嫌な予感がする。



―― ―― ―― ―― ――


夕食を食べていると、熊出没のニュースが流れた。

最近この地域では「マイソール」という最悪な熊が出るらしい。

中年夫婦の旦那の方が得意げに解説する。


「マイソールの由来はね、1900年代中盤にインド南部で12人の犠牲者を出した『マイソールの人喰い熊』から来ているんだよ。そのときの熊はね、ナマケグマという種類なんだ。名前は呑気な響きだが実は好戦的で、それこそナマケモノのような長い爪で執拗に攻撃して、肉食獣も敵わない。体長は160cmくらいで、体重は120kg程度。人間が対峙したらひとたまりもないね。日本のマイソールは死傷者合わせて今9人だ。記録が並ぶまであと3人だな。」


やだこわーい!

という声が聞こえる。


まるで今から3人死ぬみたいだ。


―― ―― ―― ―― ――


段々と吹雪いてきて、案の定(?)ペンションに閉じ込められる形になった。


その時、男の悲鳴が上がった。

そして停電。

ようやくライトがつくと、窓に熊のシルエットが映った。



きゃああ!と女の子が悲鳴をあげる。

熊のシルエットが消え、恐る恐るドアを開けると、そこにズタズタに顔を引き裂かれた死体があった。

ペンションの客、男3人組の一人だ。



不用意に外に出て熊にあったんだ、という結論になった。

吹雪が止むまで遺体をビニール袋に包み、地下室に置く。

吹雪のせいで電波が悪く、警察に連絡できない。



「やれやれ、大変なことになったね。」


と、リリカに話しかける。


「熊の気配なんて、なかったですよ。」


リリカが平然という。



急に男子高校生が刑事と遺体を調べ始めた。


刑事が調べるのはわかるが、一般の男子高校生を同席させるなんて…。

もしかして名探偵なんだろうか。


「〜〜〜の名にかけて!」


肝心のところは聞こえなかったが、決め台詞のように言いなれた口調だ。



―― ―― ―― ―― ――


その後、女子3人組の一人が殺された。

窓を突き破った熊が襲ってきたらしい。

そんな都合いいことある?



みんなが熊に怯えていると、あの男子高校生が叫んだ。


「これは熊の仕業じゃない!殺人だ!」


被害者がどうのこうの、熊の習性がうんぬんかんぬんと言って、この中に犯人がいるという。


クローズド系の殺人事件に巻き込まれたことが確定した。




捜査として、色々聞かれたが全く関わりがないので蚊帳の外だ。


「リリカはどう思う?」


「人間って複雑なことをよくやりますねぇ。」


確かに、これほど入念に準備してるなんて頭が下がる。

あの熊のシルエットのタイミングなんて最高だった。

なのに、すぐにあの男子高校生が見破ってしまう。

刑事がいるから捜査し放題だし、犯人が気の毒だ。


―― ―― ―― ―― ――


そして3日目。

吹雪が止んだので電波が戻り、警察を呼んだ。


3人組の男の一人に毒が仕込まれたようだが、男子高校生の機転により飲まずにすんだ。

そして、そのまま男子高校生による謎解きが始まった。


彼が違和感を感じた理由、アリバイ工作やら殺し方やら、全てつまびらかにされた。


自分が犯人だったら、もう地獄にいると感じるくらい完璧な説明だ。



「犯人は…!」



指をさされたのは、リリカのアイドル友達だった。

兄と共謀して、妹の仇をとったようだ。

妹もアイドルを目指していたそうだが、殺された男と毒を盛られた男に乱暴されて自殺したらしい。


動機もわかってるなら、最後の毒くらい見逃してくれてもいいのに。



女の子は偶然証拠を見つけたので殺されてしまった。

しかも、数日前には、もう一人関係者を葬ってるらしい。


リリカですら殺人は月一やるかどうかなのに。

人間、死ぬ気になればなんでもできるんだな。



リリカを見ると、女子の純潔を乱暴に奪った男への殺意がにじんでいた。

でもここで暴れるわけにはいかない。



―― ―― ―― ―― ――


パトカーが来て、犯人と男が乗ろうとしたときだ。


マイソールが森から出てきた。

すでにいきりたっている。


みんな逃げる中、リリカは髪を男の胴に巻きつけた。

引き倒して転がし、マイソールの前に差し出す。


マイソールの爪が男を裂く。

ズタズタになった男は、マイソールに喰われれてしまった。



―― ―― ―― ―― ――


リリカは熊アイドルとしてまたニュースになった。

これからは復讐代行アイドルもいいかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る