第5話 リリカ、デートに行く

今日も芸能人の不倫のニュースだ。

芸能人ならモテて当然だろう。

それで普通に暮らしなさい、って方が難しいんじゃないだろうか。



「リリカは、運命の人と出会って、もしその人に他に好きな人がいたらどうするの?」


「それは、やはり振り向いてもらえるようにがんばりますよ!」


「でもやっぱり、人は好みがあるからさ、そうそう変われないかもしれないじゃん。」


ちょっといじわるに言ってみた。



「あんなに前世では想ってくれたんです!きっと今世だって、私のことを想ってくれてるはずです!」


「へぇ。もう前世では出会ってるんだね。」


「はい!彼は何万という兵を率いて、私をやっつけにきました!その執念たるや!彼の手で殺されたときは、この人こそ私の運命の人…!っと、確信しました!」


たしかに運命の人だけど、あちらは恋愛感情じゃないよね。



「今世は殺し合いではなく、愛し合いたいのです!うまく人間そのものには転生できませんでしたが、そこそこ人間らしくはなってると思うので、出会えれば自信はあります!」


そこそこ…まできてるかな?

普通に暮らすだけなら騙せるか…。


…いや、無理でしょ。

今の暮らしも全然普通じゃない。



「人間らしいリリカもいいけど、今のままのリリカを好きになってもらえれば一番いいよね。」


「ああ、その発想はなかったです。散々この触手で彼の可愛がっていた部下を引きちぎってきたので、触手をみたらきっと嫌われちゃいます。」


嫌うくらいで済まないよな。

前世の記憶を持ち越さないルールって、大事だと思った。



―― ―― ―― ―― ――


ある日、リリカはレストランのバイト中に、お客さんから連絡先を渡された。

リリカが地下アイドルとは知らないらしい。



「連絡した方がいいですかね。運命の人かもしれないし!」


「運命の人って、もっとビビッっと来るのかと思ってた。結構手探りなんだね。」



リリカはスマホを操作できない。

スマホが人外対応になるまでは時間がかかりそうだ。

代わりに俺が操作する。



「よし、アプリ登録したからメッセージ送れるよ。この『あっくん』って人だから。」


「へー。よろしくお願いします、あっくん。」


「あ、もしかして、音声入力ならいけるんじゃない?」



入力を切り替えて試してみる。

リリカは「こんにちは!」と喋ってみるが、反応はない。

ある意味高性能だ。



「まず『こんにちは』のスタンプを送ってみるか。」


するとすぐに既読になり、あちらからもスタンプが返ってきた。



『連絡ありがとう!良かったら、今度一緒にごはんに行きませんか?』


「デートのお誘いだよ?どうする?」


「デートですか?デートって、付き合ってからするんじゃないんですか?」


そうか。

そうも考えられるか。


しかも今気づいたけど、リリカの代わりにメッセージを打つってことは、あっくんのプライバシーは俺に筒抜けだ。

すまない、あっくん。



「このお誘いはね、相手のことを知るためにごはん食べながらおしゃべりしましょう、って意味だよ。相手のことがわからなかったら、恋人にはなりづらいよね。」


「恋人…。なんか、いい響きですね!」


リリカの目が輝いている。



「じゃあ!行きます!虎穴に入らずんば虎子を得ず!」


虎穴に入っていく人外リリカの髪が、虎子のあっくんを掴んで引きひきず出すイメージが浮かんだ。

あっくんが普通の人でありますように。

普通なら命は助かる。



―― ―― ―― ―― ――


何度かやりとりして、デートを取り付けた。

あっくんは30歳のサラリーマン。

リリカとは10歳近く歳が離れているが、そんなことは些細なことだ。



「デートって、何を着ていけばいいですか?」


リリカは部屋にいるとスウェットの上下ばかりだ。

高校の制服が気に入ってたらしく、ブラウスとチェックのスカートは今でも着ている。

似たような服を買うので、着回しがいつも制服チックになっている。



「まあ、普段のリリカを見て興味があるなら、普段通りがいいよね。今の服の中で、あんまりボロボロじゃないのがいいと思うよ。」


「それを言われると、無いですね!全部高校に入った時に買ったので!」


「じゃあ、明日、買いに行こうか。」



―― ―― ―― ―― ――


プチプラの服をいくつかみつくろう。


足がきれいなのはわかるけど、初回のデートでスカートが短いのは良くないよ。

流行りだけど、ヘソ出しはちょっと…。

これは胸が強調されすぎだよ。もう少し体のラインが出ない方が…。


と、意見を言う。



「なんか…ダサくないですか?」


普段、スタイルの良さを生かした服を着ているリリカにしては、ゆるいニットにスキニーパンツという保守的な格好になった。



これは、あっくんのためだ。



初回デートで無いとは思うが、もしエッチな雰囲気になったらあっくんは死ぬ。

俺はそんな気がなくとも、部屋に起こしに行っただけで首をはねられるとこだった。

正体を知っている俺だから避けれた。

リリカが身持ちが固いようにみせなくては。



「最初のデートはそれくらいがいいんだ。普段のリリカも見てるんだから大丈夫だよ。」



―― ―― ―― ―― ――


その日の夜、あっくんからメッセージが来た。


『今日、たまたまリリカちゃんに似た人を見かけたんだけど、もしかして彼氏いたかな?もしそうなら誘ってごめんなさい。。。』


それは、俺だ。

こちらこそごめんなさい。



リリカは寝てしまったので、仕方なく俺がなりすまして返事をする。



『それは兄です!彼氏はいません!』


そうやってなりすましているうちに、話はあっくんの仕事に及んだ。


どうやら、あっくんは今ブラック企業に勤めていて仕事を辞めたいらしい。

今、友人が起業しようとしていて、誘われて迷っているとのことだ。



―― ―― ―― ―― ――


リリカは用意した服を着て、デートに行った。

カフェで待ち合わせのようだ。

俺も後をついていき、リリカとあっくんの近くの席をとった。



あっくんはイケメンだった。

それで彼女がいないとか、嘘だろ。



どうやらあっくんは友人のベンチャー企業に行くことを決め、今資金集めをしているらしい。

今投資すれば、リターンがどうのこうの。

ついでに割りのいいバイトを紹介すると言っている。


リリカには、ちんぷんかんぷんだ。

そんなリリカを、可愛いだの、いい子だの、大分持ち上げる。



帰宅して、紹介されたバイトの内容を見ると風俗のようだ。


「詐欺だね。きっと、ハマった子にお金を出させて、足りなければこういうところで働いてもらうんだろう。」


「これはどんなお店なんですか?」


「リリカは知らなくていいよ。とりあえず、あっくんを野放しにするのはやだな。」


「何が悪いんですか?」


「あっくんは、女の子の好意を利用して、その子からお金をとったり、いやらしい店で働かせようとしたんだ。悪い奴だよ。」


「うーん。あの人の何がいいんですかね?めっちゃ薄っぺらくて、何のために働いているかわからないし、お金の話ばっかりでした!あんな人を好きになるなんて、女の子も見る目がないですよ!」


それもそう…か。

人を見る目があれば、被害には遭わない…。

でも、恋は盲目とも言うから、それはちょっと可哀想かも。



「…うっかり好きになる子はいると思うんだ。イケメンだったし、メッセージも優しいし、まめだし。ベンチャーとか、夢を追ってるかんじ良くない?」


「うーん。リリカは、文章からは相手がどんな人かわかりません!拳と拳で語り合わないと!」


たしかに殴り合いとはいかないが、ぶつかり合わないと相手のことはわからないかもな。



「拳を交えたからこそ、その人がどれだけ修行してきたかわかるのです!」


今世もそのスタンスなんだろうか?



―― ―― ―― ―― ――


あっくんには、「よくわからないから知人に相談した」と送ったら、返信が来なくなった。


「振り出しに戻りましたね。」


「まあ、この調子で運命の人を探すのは、途方もないことだとわかったよ。」


リリカが恋愛の土俵に乗る日は来るのだろうか。

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