第4話 リリカ、生き霊と対決する

「もしかして、彼女できました?」


「え?なんで。いないけど。」


「最近、よく部屋に長い髪が落ちているので。」


「確かに、前よりフローリングシートをかける日は増えたかな。リリカの髪じゃないの?」


「これ、髪じゃなくて触手なんで、抜けないんです。」


触手なんだ。


「もう一人、女がいますね、こりゃ。」



―― ―― ―― ―― ――


二人でトイレやらお風呂やらクローゼットを点検した。

もちろん誰もいない。


リリカは触手を天井に伸ばして探った。



「上の階の人…!」


「何かわかった?」


「隠れて猫飼ってますね!」


「そうなんだ…。」


とりあえず、生身の女の人はいなかった。



―― ―― ―― ―― ――


翌日、大学から帰ると、あからさまに髪が落ちていた。

さらに翌日、昨日より落ちている髪の量が多くなっていた。



「なんでだろう。どこから湧いてるのかな。」


掃除機をかけながら言った。

掃除機のゴミが溜まるところが透明なのだが、長い髪が何重にもぐるぐる巻きになってしまっている。



「いつから髪が落ち始めました?」


「先週の月曜日かな。ゴミの日で、掃除機のゴミをとったから覚えているよ。」


「その辺りに何かありましたかね?」


「うーん、前日に、一緒に"手作りマルシェ"に行ったよね?」


「ああ!あの手作り雑貨を売る人がたくさん来て、お店を出してたやつですよね。そういえば、そこでシュシュを買いました!」


「そのシュシュ、どこにある?」



―― ―― ―― ―― ――


リリカの部屋には初めて入る。


乱雑に置かれた服、化粧品、雑誌、雑貨、なぜかチラシの山など。

棚や引き出しがないので、全部床置きだ。

これでは掃除をしてないだろう。


「よければ掃除するけど…。」


「お願いします!」



全ての荷物を一度外に出して掃除機をかける。

埃がすごい。

ベッドもあるけど、シーツは洗ってるんだろうか…。

洗って…ないよな。



リリカは色々な品を見返して、シュシュを探す。


「うーん、ないですねぇ。どんなのを買ったかは覚えてるんですが。」



ベッドの下に掃除機を入れると、何かが引っかかった。


「もしかして、これ?」


「あー!それです!」


白い布にレースのリボンがついている。



「あーあーあー。なんか禍々しい感じが出てますね!」


リリカはハサミでシュシュの布を切った。


中からゴムと一緒にたくさんの髪が入っている。



「まあ、俺はリリカの髪芸に慣れてるからいいけど、普通の人なら気持ち悪いと思うだろうね。」


「髪芸って思ってたんですか⁈」


リリカは自分の髪を手に取り、”髪芸…”と呟きながら、まじまじと見ている。



「これが原因なのかな?」


「だと思います!でもせっかくだから、もう少し様子をみませんか?」


普通ならすぐ処分するところだけど、こちらにはリリカがいる。

興味本位で放置してみることにした。



―― ―― ―― ―― ――


その日の夜、お風呂に入っていると、扉の曇りガラスの向こうに女が立っているシルエットが見えた。

リリカではない。

もっとじっとりした感じだ。

幽霊なのだろうか。


そして就寝すると、夢の中で髪の長い女が出てきた。

ハッと目を覚ますと、ベッドの横に夢の中の女が立っている。


普通なら悲鳴をあげそうだが、こちらには人外のリリカがいる。

リリカvs幽霊が見たい。




幽霊から目をそらさないように部屋を出て、リリカの部屋をノックする。


返事がない。


ドアを開けるとリリカは寝ている。


ベッドのそばに行ってリリカを起こす。


リリカは目を覚まして、上体を起こした。



「ダ、ダメです!純潔は渡せません!」



と、叫んで、左手で俺を払いのけようとする。


鋭い爪が喉元を擦り、血が出る。


危ない!

幽霊に取り憑かれる前に死ぬところだった!



―― ―― ―― ―― ――


「幽霊が出たんだ。ちょっと見に来て。」


二人で俺の部屋に行くと幽霊はいなくなっていた。



「やっぱりずっとはいないよね…。なんとかリリカと幽霊を引き合わせたいけど、どうしたらいいかな?」


「幽霊っていうか、生き霊な感じがしますね。売ってた人本人ですよ。」


「そうなんだ。何しに来たのかな。」


「誰でもいいから不幸にしてやる!みたいな意思を感じますね。もうちょっと憑かれてみますか?」


「そうだね、もう少し粘ってみよう。」


こうして、生き霊との根比べが始まった。



―― ―― ―― ―― ――


ここ1週間で、


鏡を見ると、端に彼女が映るようになった。

駅のホームで、彼女の人影を見るようになった。

非通知の着信に出ると、向こうに彼女の気配を感じるようになった。

バイト先で、3名のお客さんの4人目として彼女を見るようになった。




ちなみにリリカはここ1週間で、


車に置き去りの子どもを助けるために車を大破させ、

煽り運転の車をぶっ飛ばし、

放火魔を見つけて火あぶりにしていた。




生き霊、インパクトうっす!


「なんで私は生き霊が見えないんですかね?」


「リリカは正義と未来しか見てないからだよ。」


生き霊のエンタメ力の無さに俺は飽きてきていた。


「そろそろいいかなと思うんだけど、どうしたらいいかな。」


「お任せください!二日でなんとかします!」


なんとかされる生き霊の本体には申し訳ないが、赤の他人を呪っているのだから仕方ないことだろう。



―― ―― ―― ―― ――


翌日、ニュースで俺にとって馴染んだあの顔が映っていた。


あの女の人の死亡ニュースだ。

海から落ちた車が、事故か事件か調査されていたようだが、心臓発作による事故と断定されたらしい。



「あれかな?髪を飲ませて体をいじる的な?」


「それが…先を越されました。誰かの呪い返しみたいです。」


奥が深い世界だ。



「髪芸に詳しくなってきましたね。」


髪芸発言を根に持っているみたい。



「良かったら、部屋の棚とか買いに行く?」


「あー!ホームセンター行ってみたいです!」


そのあと、万引き犯を見つけて手首を折ってしまうリリカだった。

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