第3話 リリカ、痴漢を退治する
俺とリリカは電車に乗り、駅のホームに降りた。
すると、近くに人だかりができている。
駅員もいて、声の様子から痴漢騒ぎらしい。
「痴漢、って何ですか?」
「勝手に相手のことを触ることだよ。」
おい!逃げるな!
と、声が聞こえて、1人の男がこっちに向かって走ってくる。
「逃しちゃダメなんですね!」
リリカのセリフから嫌な予感がした。
リリカの髪が一本伸びて、男の足に絡む。
男の片足が切断されて、離れた。
男は何が起こったかわからないまま、前のめりに転んだ。
「リリカ、ダメだよ。」
「え?逃したくないなら、足を無くせばいいかと。」
「うん、リリカは、言ってることはいつも正しいよ。でも、今はこの人が痴漢かどうかまだわからないから、ケガをさせるのはやめよう。」
「そっか!間違ってつかまってるのかもなんですね!治します!」
リリカの髪が男の足と服を縫って元通りになる。
小さな血溜まりができたが、男はキョトンとして座り込んでいる。
警察も到着して男を囲んだので、俺とリリカはその場を離れた。
―― ―― ―― ―― ――
数日後、リリカは夜の地下アイドル活動を終えて、暗い住宅地を歩いていた。
元商店街で人の気配がない。
すると、後ろからすれ違いざまに男がリリカのお尻を触った。
「わぁ!」
リリカは叫び声をあげた。
「女の子一人で危ないよ。送ってあげようか?」
男はにやにやしながら言った。
「え…いや、結構です…。」
リリカは突然のことにドン引きした。
男はそのままリリカを追い抜いて、路地に入って行った。
「今のが痴漢かぁ…。おっかないですねぇ。」
リリカは感慨深く感じながら、また歩き始めた。
少しすると、ライトを点けないワンボックスカーが静かにリリカの後ろから近づいてきた。
そして、男が二人降りてきて、リリカを掴んで持ち上げた。
「わああ!ちょっと…!」
リリカは車につめこまれ、車は走り始めた。
―― ―― ―― ―― ――
俺の携帯にリリカから着信があった。
リリカは、自分ではスマホが使えない。
顔認証もタッチも、機械が非人間に対応してないからだ。
誰かがそばにいるんだろう。
『あ、もしもし。』
「どうしたの?」
『知らない男の人達に連れ去られて、純潔を奪われそうになりました。』
「大丈夫?犯人が。」
『普通、女の子を心配しませんか?』
「声が元気そうなんで、大丈夫だろうと。」
『よくわかりましたね!私は大丈夫です!迎えに来てくれませんか?』
―― ―― ―― ―― ――
教えてもらった場所へ行くと、人気のない湖の駐車場だった。
男が三人、手足と口元を縛られて転がっている。
「まだ無事に生きてるなんて、運のいい人たちだ。」
「はい!ちょっと前の私なら切り刻んでました!人間として成長してますよね?」
「そうだね、リリカにとって”殺す”の前に”拘束する”って選択肢が増えたのは、人間としていいことだと思うよ。」
「でも、この人達、どうしたらいいですか?私の大事な純潔を脅かしたことは許せません!私だったから良かったものの、もしこれが同じバイトの田中さんだったら大変なことになってました。二度とこんなことができないようにしないと!」
「そうだよね、警察に突き出しても、またやるかもしれないし。」
「私、しょっちゅう男の人に襲われてたんです。」
そうだ、リリカは父親から虐待されて、性的暴行も加えられそうになってたんだった…。
「私が人間を食べるから、退治するためにたくさんの男の人が弓や槍、刀、拳銃、大砲で襲ってきました。」
ああ、前世の話ね。
「それは仕方ないと思うんです。私は人間を食べるから、家族を守るためにやっつけたいですよね。そんなスポーツマンシップにのっとり、襲ってきた男の人たちも、ちゃんとおいしくいただきました。」
スポーツなの?
「だから、強くて怖いものを襲うのはわかります。でも、今の私はか弱く生きてるつもりです。この人達は何のために私を襲うんですかね?エッチなことがしたければ、お店もいっぱいあるじゃないですか。」
「そう言われればそうかな。じゃあ、エッチなことをしたいだけじゃなくて、犯罪そのものがやりたいんじゃない?」
「だとしたら、”根本”からですよね。人間として。」
―― ―― ―― ―― ――
リリカは三人の拘束を解き、一人一人に車に積んであったスパナ、バール、金づちを持たせた。
「三人で殺し合って、残った一人だけ生かします。」
男達は恐怖で動けないようだ。
リリカはもたもたしている男達の様子に豪を煮やして、三人の左手の小指を切り落とした。
「うわあ!」
痛みにビビって、男達は立ち上がった。
仕方なく、お互いに武器で攻撃し始めた。
「リリカ、これは何のためにやってるの?」
「この人達、きっと暴れたいんだと思うんですよ!だから今、ストレス発散させてます!」
そういうことなのかな?
三人は武器は振るものの、イマイチ本気で殺し合ってるようには見えなかった。
隙を見て逃げ出そうとしているのだろう。
「うーん。やっぱり根本が違う人間をどうにかしようなんて、難しいですね。」
「俺はコメントの神の方がまだ自分も共感できたよ。こちらの犯罪者の気持ちはわからないね。」
「じゃあ、こうしましょう。」
男が一人、弾けた。
肉や血や細切れの内臓が残りの二人の男達にかかる。
「アイツは私に汚い下半身を見せつけたので許しません。」
残りの二人はリリカの髪を大量に飲まされた。
「こちらの二人は、暴力に対する興奮があったら、さっきのアイツみたいに弾けるようにしました。」
「たとえばどんなとき。」
「殴りたいとか、蹴りたいとか、弱い人をいじめたいとか思って、興奮したときです!」
「ボクシングしたら?」
「死にます。」
「サッカーでボール蹴ったら?」
「物ならセーフ。」
「暴力的な動画を見たら?」
「死にます。」
動画でアウトなら無理ゲーだ。
「ほとんど生きられないと思いますが、がんばってください。」
俺は男たちに声をかけた。
日常生活で弾けたら掃除が大変そうだな、と思った。
―― ―― ―― ―― ――
リリカを車に乗せて、家に帰る。
「結構怖かったです。」
「強くても、怖いの?」
「前世の時は怖くなかったです。たとえていうなら、人間の足元に蟻がたかってるくらいの差がありますから。」
リリカの前世は知りたいようで知りたくない。
「今は人間なので、やっぱり怖いですよ。女の人が暴力から身を守るのって難しいんですねぇ。」
それはそうだ。
「今度から、一緒に帰ってくれませんか?ボディガードとして。」
「それ、世界一無駄なボディガードだね。もし今回、俺がそばにいたら、俺はあいつらからボコボコにされてただろうから、重傷者が一人増えてるよ。」
「ああ、もし目の前でそうなったら、私も手加減はできませんね。暴力が暴力を産むって、そういうことなんですね!暴力反対!」
今日も一人殺ったけどね。
リリカは眠たそうにあくびをした。
何があってもなくても、朝は来る。
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