第2話 サービス回早くない?
彼女の招待で僕は王都にある彼女の邸宅へと足を踏み入れていた。
様々な色の薔薇がエントランスを彩り、壁も明るい色で天井には大きなシャンデリラが光り輝く。
エントランス中央には左右に分かれる階段があり、二階へと登り奥の部屋が僕の部屋らしい。
なんでも元々物置に使う予定とまで言われていた小さな部屋と聞いていたが。
いざ入ってみれば一般的なコンビニくらい広い。
「今日からお前の部屋はここだ」
『広くないですか?』
「なんだ早速不満か? 広いのはいい事だろう」
『いえ、驚き故の疑問です。広すぎて落ち着かないかもしれませんが、有難いです。ありがとうございます』
「いちいち言葉が多いな。十分後にまた来る。それまでに用意しておけ」
『何の用意をーーー』
僕の意思虚しく扉は閉められる。
ため息でもついてしまいそうな状況で僕は広い部屋の隅からあたりを見渡す。
天蓋付きのベッドが一つにドレッサーや化粧台など。
部屋の奥の扉を開けば洗面台に、個室トイレとお風呂場に行ける扉がそれぞれ一つずつ。
中々豪勢というかなんというか。
よくもまぁここを物置に使おうなんて考えたなと心底思う。
僕は何となく床に腰を落ち着けて持ってきた荷物を広げる。
広げると言っても物自体は少ない。
アンスリウム家の紋章が入った宝石のついたアミュレットとお母様の万年筆。
そしてお手製の魔導具と錠剤の入った小瓶。
僕は小瓶を手に取って中を確認する。
あと六錠くらいかな。
まぁ、そんなに使う事になるとは思わないけど念の為出掛ける時には持っておこう。
魔導具を触り起動する。
空中に浮かぶパネルに僕は触れて操作する。
そこから辞典を取り出してハルディン学園を検索する。
この世界はガーデンオブロイヤルと言われる六大陸からなり、王都があるのは中央大陸のど真ん中で、自分がいるのはハルディン学園に通う為に彼女が建てた別荘、御伽荘と呼ばれる邸宅。
王都ハルディンは人口が多く過ごしやすい環境という事で他大陸からの移住者も多い。
そしてハルディン学園。
あ、更新されてる。
ハルディン学園は今年から共学になり、初年度の男女比率は不明。
教育方針は前年度と変わらず、身分差で優劣を決めない実力で生徒を見る学園。
共学になった理由は明かされていないみたいだけど、彼女の反応を見るに大方国王様あたりからなにか進言があったのかもしれないし、女学園ではやっていけなくなる程の資金難。
なんにせよ。
共学になったにしろ僕は自ら禁忌というか変態的というか。
自ら性別を偽装してこの学園にお抱えの使用人として赴かなければならないらしい。
……あ、待って。
これって最悪リリィとも鉢合わせるんじゃ。
惨めで変態な兄を許してほしい。
でも君の為にも頑張るから、会った時は素知らぬ顔で居てくれると嬉しいな。
そんなこんなで色々楽しくなって辞書をめくっていると、扉の開く音が聞こえる。
「なにをしているんだ。準備は終わったのか」
『すみません、調べ事が楽しくてつい』
「なにを調べていたんだ。ああ、私の事か」
『え、ああ、はい』
僕は気付いたら彼女の事について調べていたらしい。
見覚えがあったから、当てずっぽうで記憶の中の名前を検索にかけたら出てきたけど彼女で合ってたみたいだ。
「そう言えば自己紹介していなかったな。ローザシニア・ローズ。ローズ家の腫れ物だ。よろしく、リリー」
彼女はそう言って不敵に笑う。
ローザシニア・ローズ。
ローズ家の現当主が平民との間に身籠ったとされる子供。
中々ドロドロとした背景を持っている。
『よろしくお願いします。それでその……手に持っているのは』
「ああ、これか? お風呂に行くぞ、ついてこい」
『……』
「動揺しているな」
『あ、あああたあたあたあたあたりまえです!女の子がそんな易々と裸を見せてはダメです!』
「しかしなぁ……。とりあえず来い。怪しまれる前に」
『怪しまれるってどういう、あちょっと』
彼女は強引に僕の手首を掴み引っ張る。
あちょっとこの子どんだけ怪力あー……。
⭐︎
ドキドキ入浴タイム。
僕の息子が俺になっちゃう。
そんな下品な事を考えないと少し不味いかもしれない。
アニメなら湯気で見えないそれも僕にはハッキリと見えてしまっている。
なんて事はなく。
彼女は普通に湯船までタオルを巻いていた。
湯気があろうがなかろうが関係ないね。
でも、言わせて。
『湯船にタオルをつけてはダメなんですよ』
「知らん。ここでは私がルールだ。なんだ、見たいのか?」
『それはないです』
「即答されると逆に見せたくなるな」
『猛烈に見たいのでタオルは外さないでください』
「前半と後半で人格変わったか?」
決して見たくない訳ではない。
なんなら、タオルの上からでも分かる膨らみと彼女の黒い髪、赤みがかった肌に欲情しないのかと聞かれれば僕は間違いなく、確固としてノーと言える。
僕はイエスマンに常々なりたいと思っているけどそれでも今回ばかりはノーと言わざるを得ない。
だけど、変態になりたくないから今回はしっかりと紳士を保とう。
「しかし、お前も男にしては中々」
『まさか毎晩男を取っ替え引っ替え』
「な訳ないだろ。お前が初めてだ。まぁ、お前を男としてカウントはしないがな」
『僕は男です』
「外見だけなら普通に可愛い女の子なんだがな」
『それでこの入浴タイムに意味はあるのですか?』
「ある。実のところを言うと私以外お前が男である事を知らない」
『はぁ……え?』
「この御伽荘は男子禁制のメイドと私だけの屋敷。これから先お前……ああ、いや、リリーには私の専属メイドとして学園を卒業するまでの間一緒にいてもらう」
『学園はいいです!しかし、貴女以外に僕は今性別を偽ってるって事ですか!?』
「そうだが?」
『そうだがって、ルドミーナさん!ルドミーナさんは?』
「彼女も君を女の子として認識している。だからバレるなよ、バレたら間違いなく首と胴体が離れる事になるぞ」
『……は!! まさか!!』
この人がこうしてお風呂に一緒に入ってる理由って僕が女の子である事を体を張って証明してみせる事で周りに悟らせない為。
そしてバレた時はルドミーナさんが激おこプンプン丸になってちょんぱされてしまう。
『嵌められた!!!』
「私のこの自慢の身体を見る事が出来たんだ。逃げても地獄に持っていくには十分すぎる供物だとは思わないか?」
『つあー……退路は断たれた上に道の先には常に荊がある状態。さすがローズ家』
「家は嫌いだが、こう言う資質を持って産まれた事には感謝だな。さて、ここからが本題だが……」
『あぁ、もうどうにでもなーれ』
そうして彼女は話し出した。
大部分は家が関係してるのだろう。
多少は伏せられているところもありながら、掻い摘んで整理すれば学園を卒業するまでの間の使用人でローザシニア様に擦り寄る悪いものから護るのが主な役目。
『僕そんなに強くないのですが』
「僕、ではなく今後は、私、に変えろ。そして勿論だが下着類も徹底して女の物を使ってもらう」
『……承知致しました、ローザシニアお嬢様』
私は渋々それを受け入れた。
また女物の下着を履く事になるのか。
あれちょっと股間の辺りがキュってなるから嫌なんだよなぁ。
お風呂から上がった私はお嬢様に手招きされ、近寄れば舐め回すかのように身体を見られる。
「リリー、随分華奢だな」
『そうですか? これでも一応力はある方ですよ』
「だろうな」
『はい。なので、その下がった視線を上にあげてください』
「すまない。男のそれは実物はどんな形をしているのか気になってな」
『その気持ちは分かりますが、単純に棒に袋をつけてそこに玉二つ入れればそれっぽくなります』
「絵では見た事あるんだがな」
『そうなんですか……絵?』
「これが君の下着だ。何色がいい。おすすめは青か黒だ」
『え、あ、ああ、白がいいです』
「ふむ、カマトトぶるつもりか。それでもいいが」
『決してそんな意図はありません』
なんか色々翻弄されながらも私は下着を身につけていく。
「上はキャミソールでいいか。多少身体を見られても私より女の子らしい身体つきをしているから心配はいらないだろ。それにしても抵抗はないのか」
『ありますよ。特に下の部分はなんだか締められている気がして嫌になりますね』
男物の下着は動きやすいしぴっちりしている物でも伸縮するから気にならないけど、女物の下着ははみ出そうで怖い。
なにがはみ出るって。
「ふむ。もっこりがはみ出そうだな」
『あの。いや……ちょっと、その恥ずかしいので口にするのは辞めていただけますか』
「これは基本サイズなのか?」
『……気になるのですか?』
「ああ」
この人羞恥心を何処かに置いてきてしまったのだろうか。
でもこの人は私のお嬢様になる人だ。
それに身体のことを知っていてもらうのは逆にメリットかもしれない。
『えっと……これはですね。例えば……パンに例えましょうか』
「パンで例えるのはやめてくれ。私の主食だ」
『……これは要するにスタンバイモードです。排泄時などはこのモードが一番適切で基本的に収まりの良い状態です。世の中にはスタンバイモードが平均のバーサーカーモードより大きな男性もいらっしゃいますが、平均は恐らく私くらいです。他のを見た事はありませんが』
「なるほど?」
『そして気持ちが昂った時、男の気持ちを確認する上で分かりやすい部分はとも言えるココはスタンバイモードからバーサーカーモードにモードアップします』
「なぜバーサーカーなんだ。スタンドアップモードではダメなのか」
『ダメですね。男性の方々は恐らくココが意思に関係なく暴れ狂う時があるので、個人的には制御の効かないと言う意味でもバーサーカーモードが適切だと思います。そしてそのバーサーカーモードになると、様々な方法で昇華しないと一緒猛ってます。主張が激しくなります』
「ほほう、なるほどな。それでそれで」
『このバーサーカーモードになった暁には排泄時に苦労し、日常生活に支障きたします。主な要因としては歩きづらくなります』
「男も大変だな。参考になった、ありがとう」
『いえ』
「お嬢様、いつまで脱衣所にいらっしゃるのですか」
「『わぁ!!!!』」
もう色々飛び跳ねた。
タオルを巻いて隠したけど間に合っただろうか。
「あ、ああ、すまない。今まで貧困生活をしていたせいで下着の色に迷っていてな。楽しくなって一緒になやんでいたところだ」
「そうなのですか。湯冷めしてしまいます。早く着替えてくださいね」
「ああ、わかった」
ルドミーナさんは私を一瞥するとそのまま去っていく。
『色々飛び出るところでした』
「ほぉー……」
『どこ見てるんですか。下腹部に私の顔はないですよ』
そんなこんなでドキドキ入浴タイムは終わった。
楽園のアンスリウム 語り部 @katalibe48732
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