5.冒険者ギルド
城門をくぐってすぐの停留所で、馬車の皆と分かれた。
ミアさんはこのまま宿で休むらしいので、冒険者ギルドの場所と、安くておすすめの宿を教えてもらって、今は冒険者ギルドに向かっている。
私は石畳っぽいものが敷かれた、道幅が無駄に広い大通りを歩きながら、キョロキョロと辺りを見回した。
異世界で初の街並みに、しかし感動がさほど湧いてこない。五階建て以上に見える建物が多いけれど、エレベーターがないときつそうだな、くらいの感想しか出なかった。
しかし興味を引くものもあった。
街ゆく人の中にはなんと、ケモ耳にフサフサな尻尾を生やした人がちらほらいる。
ちょうど今、目の前を歩いている人も尻尾をフリフリとさせているので、とりあえず触ってみる。もふもふだ。
「っ!? なにしがんだてめー!」
「触ってほしそうに尻尾が揺れていたのでつい、もふもふっとしちゃいました!」
すみません、と目元に傷のあるイカついおっさんに頭を下げる。申し訳ない。
おじさんは「イカれてやがる……」と眉間にシワを寄せたが、すぐに去っていった。よかった。疲れで私もどうかしていたな。気を付けないと。
尻尾に興味を引かれないように、真上を見ながら、また歩き始めた。
しばらくして冒険者ギルドが見えてきた。
開け放たれたままの扉からは、武器を持った冒険者風の人や、武器を持たない普通の住人風の人が出入りしていた。
よし行こう、と呟いて建物に入る。
扉をくぐると、広々としたロビーが広がっていた。右手に受付カウンター、左手にはテーブルと椅子がいくつも並べられていて、そこには何人もの人がいた。
私の可愛さ、可憐さに注目されるかなと思ったけれど、そんなことはなく、何人かがチラリと見ただけだった。
よし、とりあえず受付で冒険者登録だ。
受付カウンターを見てみると、空いている受付があり、そこに近づいて声をかけた。
「あの、冒険者登録をお願いします」
「冒険者登録ですね。ではこちらに必要事項を記入してください」
受付嬢から用紙とペンを受け取る。
紙には、名前、種族、年齢、出身地、職業の欄があった。
……うん、字が読める。見たことのない言語のはずなのに、慣れ親しんだかのように自然と頭に入る。今思えば、会話も知らない言語なんだよね。言語理解という名のチート能力を、やはり私は授かっていたみたいだ。
とりあえず書き込もう。
名前はアイリ。種族は人って書けばいいのかな。それで年齢は……15歳だけれど、今の自分は何歳くらいの見た目なのだろうか。
「すみません。私って何歳に見えますか?」
私がされたくない質問ナンバーワン『私、何歳に見える?』だ。しかし、今は仕方がない。
「15歳くらいでしょうか?」
「正解です!」
よし、年齢は15歳と。
出身地は……。
「私の出身地って、どこだと思いますか?」
「え、えっと。この街、リプトンですか?」
「正解です!」
出身地はリプトン、と。
職業は……ひ、ヒキニートってことになるのかな。いや、それは前世だ。今は何になるのだろうか。
とりあえず聞いてみよう。
「あ、あの。私の職業って何だと思いま――」
「無職ですよね」
食い気味に言ってきたっ!
何この受付嬢!
確かに無職だけど! くそが!
「せ、正解です。無職なので空欄でもいいですか?」
「……ちなみに、冒険者の職業は、戦闘スタイルのことですよ」
そう言って、受付嬢は微笑んだ。
それは少しだけバカにしたような微笑みだった。
くっ……じゃあなんで無職って煽ってきたんだよ! まあでも言われてみれば、いや、言われなくても冒険者の職業とはそういうものだろうと、私の頭脳も導き出していたけどね。あえて分かっていて聞いただけだからね!
そして必要事項を書き終えると、用紙を受付嬢に渡した。
受付嬢は内容を確認していく。
名前、種族、年齢、出身地、そして職業欄で目を止めた。
「……魔法双剣士というのはどういった職種ですか?」
ふふ、気になっちゃったか。仕方がない。おそらく、あまり使い手のいないスタイルだろうからねっ!
「魔法を使い、剣を二本扱うんです!」
受付嬢は鼻で笑った。
「ちょっと! 本当ですよ! 魔法も使えますよ! それに背中を見てください! 剣を二本背負ってるでしょう!」
そう言って、これみよがしに背中を見せた。
「は、はあ。魔法が使えて、剣を二本扱えるならこの名称で構いません」
なんだか受付嬢が、痛い子を見るかのような目を向けてくる。心外だ。
くっ、いつか、いつか私の凄さがわかる時が来るだろう!
受付嬢は受付作業を続け、その後は特に問題なく登録作業は終わった。
「では最後に冒険者ギルドについて説明しますね」
なんで説明が最後なのだろう。最初にしてくれてもいいのに。まあいいんだけどね。
受付嬢の話で、私が興味を持ったものだけをまとめるとこうだ。
冒険者には等級がある。低い順にF〜A、その上にSまであり、最初はFからスタート。等級は基本的に依頼達成など、冒険者ギルドへの貢献度で上がる。
魔物の等級もあり、そちらもF~Sまで。
あとは、基本的に冒険者は複数人(平均で5人ほど)で組み、同じ依頼を受ける。そういった、共に行動する者の集まりをパーティと呼ぶらしい。
そして一人で行動する冒険者をソロ(厨二心くすぐられるワード)と呼ぶらしい。
以上だ。
あとは聞き流してて覚えていない。
「もう一度聞きたい時や、さらに詳しいことが聞きたい時は、私たち受付係に聞くかカウンター横に置いてある冊子をご覧ください」
「分かりました。完璧に理解は出来ていますが、また今度聞きに来ると思います」
「はい、そうしてください。そしてこれが会員の証になるギルドカードです。身分証にもなるので無くさないでくださいね。再発行には手数料を頂きます」
よそ者にこんな簡単に身分証なんて渡して大丈夫なのだろうか。甚だ疑問だ。
「分かりました。無くさないように気をつけます」
手渡されたギルドカードを受け取る。
ギルドカードには名前とランク、それとよく分からない数字の羅列が書いてあった。会員番号かな?
やはり、ステータス的なものは書いていない。
ミアさんに聞いた感じだと存在しないようだった。
ついでに魔法についても聞いた。魔法を使える者は生まれて物心がつく頃には自然と扱えるものらしい。それを聞いて絶望した。
しかし次に聞いた話で希望が生まれた。
魔術というものが存在するらしい。しかし話を聞くにつれてそれも絶望に変わった。勉強しないと使えないらしい。
勉強は嫌いなので私は剣とアイテムボックスで頑張っていこうと誓ったのである。
ちなみに、魔力は生物なら例外なく持っているのだとか。
それを自在に扱うことで身体能力を向上させたり、武器の強度を上げたり出来るらしい。こちらは努力とセンスらしいので、センスのある私はやはり剣の道が正解だと悟った。
という訳で、さっそく依頼でも受けようかなっ!
私は依頼の貼ってあるボードに向かって歩き出した。
冒険者アイリの物語が――今、始まる。
私は心の中で、そうナレーションを入れた。
そこで足を止める。
目に映るは自身の姿。
視線の先に鏡があった。
黒髪黒目の愛らしい女の子。
その顔には遠目で分かる傷痕があった。
「ま、まさか……顔にも傷が」
覚束ない足取りで鏡に近づく。
頬に刻まれたキズ。
スカーフェイスな女の子。
「……か、かっけー!」
顔に傷なんて女の子にとっては致命傷だと思われたが、なんてことはない。私レベルになると魅力に早変わりだ。こう、なんというか厨二心が刺激される。
「傷が疼く……ふっ、今は休息の時、か」
いやあ、今日はもう疲れたし、とりあえずカールおじさんに貰ったお金で宿をとって、ご飯を食べて寝よう。アイテムボックスにもお金があったし、当分は冒険しなくて大丈夫なのだ。
明日から本気だそう。うん、それがいい。
そう思って冒険者ギルドから出ようと歩き出した。
「待ちたまえ、そこのお嬢さん」
後ろから私を呼び止める声。
新人がギルドで絡まれるテンプレ的展開。
そんな予感がした。
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