第22話 水梨、プレイヤーと初戦闘す
「あ」
見つかっちゃった。
俺はしかたないので立ち上がる。変な体勢だったから立つときに背中がバキバキ鳴った。
「どうも、久しぶり」
「久しぶり、じゃねえんだよ……なんでてめぇら一緒にいるんだ!? ああ!?」
山野は俺と一緒にコーヒーカップに詰まっていた芳賀を見て怒鳴る。
芳賀が面倒くさそうに立ち上がって、嫌そうな視線を向ける。
「山野には関係なし。晴香がどこで何してようがね。しつこすぎ」
「関係なくねえよ、どれだけ面倒見てやったと思ってるんだ? あ? 恩があるだろうが」
山野はそして再び俺に目を向ける。
「それなのに俺から逃げて、この初期装備のままの雑魚と一緒にいるとか、頭おかしいのかてめえ?」
「いや俺は単なる成り行きで……」
「うるせえ! 黙れ!」
だめだなこれ。
もう話聞く耳ないってやつ。
「二人で詰まってるところ見られたのはタイミング悪すぎだったな」
「晴香にとってはラッキーなタイミングだったけど」
「そりゃそうでしょうね」
「なにこの状況で仲良くお話してやがる! 舐めてんのか、俺を!?」
やはり何しても怒りが増幅するモードだ。
目つきがヤバいし顔つきがもうマジギレしてる。
なのに晴香は焦る様子も特になく、むしろ。
「そりゃ舐められるでしょあんなんじゃさ。『キスしてよキス、ねえチュ~』とか言って顔近づけてくるのキショすぎて草だったわ。さすがの私もキショすぎて裸足で逃げ出したわ」
煽りすぎでしょ。
「てめぇらどっちもぶっ殺す!」
ほら、いわんこっちゃない。
と芳賀の方に目を向けると、芳賀も俺を見て目が合った。
そしてにやりと歯を見せると。
「助けて初期アバター!」
「初期アバター……ぶっ殺す……!」
山野が俺に憎悪の目を向けてきた!
やりやがったこいつ、煽るだけ煽ってヘイトをこっちに向けやがった!
このヘイト管理力、いいタンクになれる才能あるね。
……さて、そろそろ腹くくるか。
「よっ」俺はコーヒーカップから外に出て、構えをとった。
ま、やるしかないなら芳賀の煽りも悪くない。
怒らせて困るのは戦いを避けたいとき。
戦うと決まったのなら、冷静さを失わせれば敵が弱体化するのだからね。
「本気でやる気か? また逃げるかと思ったぜ」
「逃げてもずっと追われそうだしね。芳賀さんに助けてって言われたら放ってはおけないな」
だから俺も乗っかって山野をイラつかせよう。
……あ、眉毛がさらにつり上がった。
「ぶっ殺す!」
山野は剣を抜いて、正目に構えた。
と思うと即座に斬りかかってくる。
だがそのスピードはさほど速くない。
なんなら例のコロシアムのオーガチャンピオンの方が速いくらいなので、今の俺なら避けることは難しくない。
回避しつつ距離をとり、コーヒーカップから離れる。
山野は追いかけてさらに斬りかかってくる。
俺はさらに避けてさらに離れる。
そうやって攻撃を避けつつ遊園地の中を移動していく。
「てめぇやる気あんのか! 逃げ回ってばかりでビビってんのかよ!」
「そんなに慌てなくてもいいじゃないか。夜は長いんだから」
いなしながら、俺は視線を山野とアトラクションの間で動かしながら目的地へ向かう。 そして――。
「よし到着。はっ!」
観覧車の入り口に行き、ゴンドラの上に飛び乗った。
ダンジョン内のレベルアップした体なら、これくらいはいけるいける。
観覧車は支柱もゴンドラも錆が浮いているが、今でもゆっくりと回っている。
普通は廃墟なら止まってるだろうけど、それがダンジョンパワーなんだろう。
とにかく、俺はゴンドラの上に乗り、ゆっくりと上がっていく。
山野は呆けたように、上がっていく俺を見上げている。
「何ぼーっと見てるんだ? 高いところに来るのが怖い? まあ、それなら来なくてもいいけど」
「誰がビビってるだって? 舐めた口聞いてんじゃねえぞ!」
山野も俺の二つ後のゴンドラによじ登った。
しかしその動きはそこまで軽快じゃない。
やはりな。
硬そうで重そうな鎧着てるもん。
シャツとパンツだけの身軽な格好の俺と比べたら当然動きづらい。
つまり、アスレチックな場所で戦えば俺の方が有利になるという予想を立てたけど、思った通りだ。
相手の冷静さを失わせ、地の利も得た。
準備は万端ってところだな、そろそろ始めよう。
観覧車が回転していき、俺たちは地面から徐々に遠ざかる。
俺は一段隣に飛び移り、手で山野に来るように促す。
だが、そこまではさすがに山野も無謀ではなかった。
キレてはいるが、ここで俺が身構えているところに飛び乗っていこうとするのはさすがにいい的になりすぎると思ったんだろう。
山野は挑発に乗って飛んでくるよりも、別の選択をした。
「くくっ、バカなヤツ。上を取って得意がってるみたいだけど、逃げ場がなくなっただけだぞ? バカが! 俺にはこいつがあるんだよ!」
山野は勝ち誇った笑いを浮かべながら、スマホを操作した。
その自信満々な態度から俺は察した。
(来る……! あの魔法使いの大戸をやった秘密兵器だ)
ダンジョンアプリを使ってインベントリからアイテムを出す山野。
剣を鞘にしまうと、代わりにその手に、空から出現した紅色のオーブをとった。
ダンジョンアプリのアイテム欄(インベントリとも呼ばれる)に『入れた』アイテムは、一時的に消え、必要な時にアプリから再び実体化させられる。それをやると、こんな風に出てくるわけだな。
皆はできるけど俺はできないから、見たのはこれが初めてな気がする。
まーじ便利だなこの機能。使えないのが残念すぎる。
「とまあ、うらやましがるのはほどほどにして、あのアイテムの効果に注意だな」
謎のオーブ。
形状からしてぶん殴ってくるわけじゃなさそうだが……。
「これは『ある人』からもらった貴重なアイテムだ。本当なら、第一階層にいるようなお前じゃ絶対目にすることのできないもんだぞ?」と喋りつつ、観覧車の下で俺たちを見守っている(見物しているが正解か?)芳賀の方にオーブを見せつけた。「俺はそんな人からアイテムをもらえるような人脈あるんだ。わかるか芳賀ちゃん?」
しかし芳賀は冷めた目をしている。
俺も同感だな、自分が凄くない人が凄い人と知り合いだって自慢したところで、虚しいだけだろう。
「見せてやるよ! 俺のすごさを、お前を燃やし尽くしてな!」
山野は再び俺に顔を向け、オーブを握った手もまた俺に向ける。
オーブの朱色が深くなり、発光を始める。
そして、深紅の大きな火球――エネルギーが凝縮された火球がオーブから放たれた。
火球が持つ高エネルギーが陽炎のように周囲の空気をゆがめ、熱風とともに俺に向かってきた。
「そこじゃ逃げ場はねえぞ! 丸焼けになりやがれ! 大戸みたいに!」
叫ぶ山野。
迫る火球。
俺は拳を握りしめ、
火球を殴り飛ばした。
「……はァ?」
パンチで飛ばされた火球は、別のゴンドラに当たり爆発し、観覧車はグラグラと揺れ動いていた。
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