第17話 仲間割れ
「まずは……駅のまだ歩けてない場所を歩いて見て回ろうかな」
昨日の駅探索だけじゃまだ行けてない場所があるからね。
まず青の台座がある8番ホームから階段を上がりコンコースへと行く。
するとトイレの表示が目についたので、まずはそこに行ってみる。
トイレの様子は普通だった。手洗い、小便器、個室とそろっている。まあ便器が砕けたりはしていたけど。
「って、骸骨!?」
やっぱり普通じゃなかった。
なぜかトイレの個室の中に剣を持ってる骸骨があった。不気味だがとりあえず剣を回収しておく。もちろん消えるが経験値は手に入る。
それにしてもなぜ駅のトイレに剣が?
このダンジョンを作った人のアイテム配置センスはどこかおかしい。そもそも人かどうかもわからないけど。
ダンジョンを進んだら仕掛け人の痕跡も見つかったりしないかな。
やっぱりそこも気になるポイントだよな、誰がなんのためにこんなダンジョンとダンジョンアプリを作ったのか。それも好奇心が疼くよね。
それを気になってるのは俺だけじゃない。
YouTubeで検索すると、『【驚愕】ダンジョンアプリを作ったのは日本人だった!?』とか『【真実】ダンジョンの奥で行われている光と闇の戦い』とか、そんな動画の再生数がたくさん回ってるし。……いやこれはちょっと違うか?
まあとにもかくにも気になるところってこと。
そう、ダンジョンを先に進んで見てみたい景色はいくらでもある。
なんて取り留めないことを日常のトイレから出る時みたいに考えながら、ダンジョンのトイレから出た時だった。
俺の前を一人の女が駆け抜けて行った。
切羽詰まった顔で全力疾走していて、俺に気付いた様子もなく。
「……あ!」
でも俺の方は気付いた。
それは見覚えのあるピンクのメッシュで姫カットの女。
昨日見た三人組のあいつ――芳賀晴香だった。
俺は芳賀の後ろ姿を見送るが、どうも相当必死で走っているように見える。
一人で?
どういうことだ?
パーティ追放でもされたのか?
「山野! お前いい加減にしろよ!」
今度は聞き覚えのある『声』が聞こえた。
山野……それもまた聞き覚えがある名前だ。
「あ、一人じゃなかった。三人ともいたわ」
少し離れたところで、男二人が言い争いをしていた。
山野という鎧の男に、もう一人の軽装の男だ。
この前公園で見た三人が全員駅に揃っていることになる。
「てめぇ本当にうるせぇよな、大戸」
軽装で魔法使いみたいな三角帽子を被ってる男は大戸というらしい。
二人はめちゃくちゃ険悪な雰囲気。
言い争いは続いている。
「山野がうるさくさせるようなことするからだろ。芳賀さんへの態度、さすがにもう黙ってられないところまで来てるぞ」
「ちょっと『なかよく』しようとしただけだろうが、うるせぇやつだな。だいたいてめぇには関係ないだろうが。つーかてめぇもナイト気取って点数稼いであいつとヤリたいだけだろ? あいつのエロい体をエロい目で見てたもんなあ。へへへ」
顔を近づけて言う山野。
大戸は怒りで顔を紅潮させる。
「なっ! ふざけるな! 僕はお前とは違う!」
「おいおいそんなに切れるとか図星か? ハハハ、一番キメェんだよなお前みたいなむっつり野郎がよ」
「……っ! もうパーティは解散だ……山野、お前と一緒にやるのは無理だ! 僕らの前から消えろ」
大戸が低く怒気の籠もった調子で言い、近付いてきている山野の胸をドンと押す。
「チッ! 何様だよてめぇは。前からムカついてたんだよな大戸、てめぇには。消えるならてめぇが消えろ」
山野はそう言いながら剣を抜き、威嚇するように大戸の目の前で切っ先を揺らせる。
それに対して、大戸の方も杖を手に取り、山野の目の前で火の玉を爆発させた。
「ってめぇ!」
山野が後ろに跳びながら、怒りに眉をつり上げた。
そして剣をしっかり構える。
大戸も杖の先端を山野に向ける。
(これ、完全に始まる奴だ。気になって見てたけどそろそろヤバそう。でももうちょっと見たい。プレイヤー同士の戦いなんて、みったにみれるもんじゃないもんな)
少なくともダンジョン入って四ヶ月で初のことだ、PVP`なんて。
これを見逃したら後悔する。
初のプレイヤー同士の対決、トイレから観戦モードで見させてもらおうかな。
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