第14話 穏やかな日々?
「はあ、この前は驚いたな」
ダンジョンの中でスライムを潰しながら、俺は先日のことを思い出していた。
他プレイヤーがモンスターにやられそうになっていたところを助けた時のことを。
まあ、あれはあれで良かったと思う。
助けに入ったのも、安全だと確信があったからだし。
俺がいつもレベル上げで倒してるモンスターに苦戦してるということは、俺に危害を加えられるほどの強さはないってことだから。
とはいえ少しは警戒していた。
世の中絶対はない。毒とか麻痺とかそういう状態異常、あるいはトラップとか、単純な力で勝っていても負けることはあるからだ。
まあ、あの状況で俺にそんなことするのは普通はないだろうけど。
ただ、そういうことだからこれから先も不用意に接触するのはやはりやめておこう。
「しかし、どこかで見たことあるような……ないような……気がする人だったな」
あの時に助けた女魔法剣士のことが俺の頭に思い浮かんでいる。
「でも……あんな銀髪ツインテールなんて知ってる人の中にはいないし、単なる気のせいか。顔もよく見てないしな。ま、どうせもう会うこともないだろうから誰でもいいか、別に。それよりも重要なことがあったことだし」
他プレイヤーと比較して俺の力がそこまで劣ってないってことがわかった。
それがこの前の出来事での一番重要な収獲だ。
あれだけで全ては測れないが、ダンジョンにいるプレイヤーが俺よりずっと上の人ばかりってことはなさそうだ。
レベル上げルーティーンをコツコツやってたおかげで、俺もそこそこやっていけるくらいにはなっていたらしい。
となれば、いよいよ。
「レベル上げだけじゃなく、ダンジョン探索も始めていこうか」
そう、ダンジョン探索。
別に俺はレベルを上げるためにダンジョンアプリを起動したわけでもリセマラ大量にやってたわけでもない。
突然現われたダンジョンというワクワクさせてくれるものを最大限味わいたいっていうのが俺の元々の思いだ。こんな地上初の無茶苦茶なものがあったら、そこに何があるか、その奥に何があるのか、自分の目で見て足で歩きたいと思うのは当然のこと。
そのためにはモンスターや他プレイヤーに負けない力が必要だから、リセマラやレベル上げをしていたのだ。
まあ4ヶ月くらいレベル上げばっかりしてて当初の目的を忘れかけていたけど……ちょうどよく思い出せたことだし。
「今日からダンジョン攻略を開始する。ここからが真のスタートだ!」
ダンジョンに向けて宣言し、俺は第一階層の入り口の台座から、あらためてダンジョンを進み始めた。
第一階層の廃墟をまったりと歩いて進んで行く。
何度見てもこのビルが崩れて木や蔦に覆われてる風景はいいものだ。
普段のルーティーンでは駆け抜けてるけど、じっくり観察しながら歩くと良さに気付く。
これはダンジョンに限らないか。
家の近くを歩くときも良さに気付きたいものです。
廃墟を歩いているとモンスターに襲いかかられることもあるけど、石を投げたりして問題なく倒して俺は先へ進んでいく。
あ、そうそう。
石、投げられるんだ。
これはレベル上げ中に気付いたんだけど、【初期アバター】の特性でアイテムや装備は持てない俺だけど、石は持てるのだ。
実際に今手の中に石を持っている。
また、近くの木の枝を折ってもやはり消えずに手に持つことができた。
しかし石を投げて倒したモンスターのアイテムを手に持つとやっぱり消えた。
違いは何かと考えたけど、わかったのはスマホに入れられないことだった。
俺はどうせ消えるから無理だけど、SNSで見たダンジョンの情報だと、アイテムはこのダンジョンアプリの機能としてスマホに収納できるらしいのだ。
====所持品====
◆鉄の剣
◆回復ポーション
===========
みたいにスマホに表示されていて、タップするとそれを実体化させられる。
ゲームのインベントリにしまうようなものだな。
しかし、それができるのはドロップアイテムやダンジョンにある宝だけで、その辺の石ころや木の枝はできない。石や木はアイテムではなく環境オブジェクトという扱いなんだろう。
ゲームだって宝箱のアイテムはプレイヤーが手に入れられるけど、家の中の小物とか、照明器具とか、地面の土とかはアイテムとして手に入らないことが多いしね。このダンジョンの制作者がそれを参考にしたのかもしれないな。
というわけで、そういう石ころみたいなものは、俺が触っても消えない。
考えてみればそれは当然。ダンジョンのものがなんでも消えるなら、地面を歩いてるだけで土が消滅して奈落の底まで落ちてしまう。
だからダンジョンの構成要素は触っても大丈夫というのは理に適っている。
ただし、もちろんそれはスマホに入れられないので両手で持てる分の物しか持てない。
使い道はその場に落ちてるものを投げつけるくらいだけど、使えるものが皆無よりはいい。もちろん、メインウェポンは拳だが。
その拳でモンスターを倒しながら先へと進んでいくと、周囲の景色に変化があった。
正面の遠くの方に大きな公園が見えてきたのだ。人の手が入らなくなった公園は自然が豊かになりすぎていて、木々が林立している。
たしかに都市の廃墟なら、そこには公園もあってしかるべきだな。どんな風になってるかあの公園に行ってみよう。
俺は公園へと伸びていく通りを、瓦礫を避けながら進んで行くことにした。
――時だった。
「見たんだよさっき、こっちの方で!」
唐突に人の声が聞こえてきた。
俺は咄嗟に瓦礫に身を隠す。
癖になってるんだ、人間から隠れるの。
ところで何を見たんだろう?
気になるのでこっそり瓦礫の影から様子をうかがうと、2人の男が早口で会話している。
「本当に初期アバターがいたのか?」
「ああ! 白いシャツに黒いパンツ、間違いない。そんな格好でダンジョン歩いてる人なんて二人はいないはずだ」
…………いや、待て。
(なんだ初期アバターを探してるやつって!? と、とにかくなんか超必死だからこのまま隠れておこう。必死すぎて怖いし)
しばらく身を潜めていると、「もうここから離れたか……」「別の場所を探してみようぜ」と声が聞こえて、足音は離れていった。
「なんだったんだ? あいつらは」
白シャツに黒パンツって、俺だよな。
どう考えても他にこんな格好でダンジョンいつまでもうろつく人なんているわけないし。
でもさっきの二人にはまったく見覚えがない。会ったこともない。
なんで俺を探してるんだ?
瓦礫の影から出て公園に向かいながら考えるが、答えはでない。
そうこうしているうちに公園の入り口まで来てしまった。
「あ、着いた。んー、考えてもさっぱりわからないし、とりあえずこのことはペンディングしておこう。ただ、俺を探してる人がいるってことだけは頭の片隅に置いておかないとな。さて! 公園だ」
井の頭公園みたいに、池があり木々がたくさん植えられていて、都会のオアシスという感じの公園が大通りの突き当たりにあった。
もちろん、この廃墟のダンジョンでは公園も廃墟らしく草木が茫茫に繁茂していて、オアシスどころかジャングルになっている。
とはいえやはり公園。緑が豊かな中を木々のざわめきを聞きつつ歩いていると、モンスター以外の動物もたくさんいて心が和む。
心配しすぎるのもよくないな。このほのぼの感を楽しんで、のんびり散歩でもしようじゃないか。
「ハルカちゃんー、クスリちょうだいーっ!!!」
そう思った瞬間だったのに。
男の喧しい声が右手から聞こえて来た。
また他のプレイヤー!?
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