第13話 初期アバター

 突如として現われた青年は、あかりへの攻撃を片手で受け止め防いでいた。


 彼はすぐさまもう片方の拳を握りオーガチャンピオンに打撃を与える。

 その力は凄まじく、巨大なオーガチャンピオンを後に居たモンスターごとなぎ倒しコロシアムを転がした。


「ギリだな」


 彼が口を開いた。


「とりあえず、こいつらは俺が片付ける。あなたは傷の手当てでもしておいてよ」


 あかりが全力で戦っても一匹も倒せなかったモンスターを、一瞬で何体も倒したその人は、視線もあわさず事もなげにそう言った。


DEYO:うおおおおおおおおおお!

oudon:助かったあああああああああ!ほっとするあかりんかわいい!

MA7ON:救世主!

pi999pi:てか誰!?


 コメントが一気にハイスピードで流れていく。


 最も近くのモンスターは乱入者が倒したが、まだまだ他のモンスター達は大量にいる。

 モンスターを一気に倒したことにより乱入者にモンスターからのヘイトが集中し、無事なモンスターが乱入者に襲いかかってくる。


 だが彼は地面に転がっていた石をおもむろに拾い上げ、自分に向かってくるモンスターに向かって全力で投げつけた。


 ――ゲァーッ!


 ゴツゴツした拳大の石はモンスターの胸を抉り、一撃で撃退する。


(さっきの穴はこうやって!? 石ころで!?)


 さらに手頃な石がなくなった後も、近付いて来たモンスターの攻撃をかわし、腕で受け止め、膝蹴りで、裏拳で吹っ飛ばして倒して行く。


ryo:石!? 素手!? 武器ないとか意味分かんねえええええ!

MA7ON:てか防具も初期のままじゃね? あの白シャツと黒短パンって。

pi999pi:え? 初期アバターのままで戦ってるのあの助っ人?


 乱入者はゲームスタート時のプレイヤーキャラクターがそのまま来たかのような姿だった。それでいて、かなり攻略をガチっていうあかりがボロボロにやられたモンスター達をいともたやすく倒していっている。


 あかりもリスナーも、そんなあり得ない姿のプレイヤーが、モンスターを殲滅していくのを呆気にとられて目撃していた。


 言うまでもなく、そんなを姿でダンジョンを攻略しているのは水梨創以外にいるはずがない。




 十数分後、コロシアムのモンスターは全滅した。

 最後のグレーターデーモンが消えると、重々しい音を立ててコロシアムの四方にある扉が開く。その扉をくぐると、転送されてきたトラップの場所に戻る寸法だ。


 あかりは安堵に息を弾ませた。


「あ、扉が――」

「敵を全滅させるまで出られない、トラップみたいな場所なんです、ここ」


 敵を倒した水梨があかりに言った。

 しかし目は合わせない。基本プレイヤーと関わりたくないので、水梨は自分の顔をあまり見られないようにしていて、必然自分も相手の顔をなるべく見ないことになる。


「ところで体は大丈夫ですか? 体力回復しました?」

「あ、はい。あなたが戦ってくれてる間に回復薬を使わせてもらいました」

「よかった。正確にはわからないけど一度トラップ発動したらしばらくはモンスター出ないから、今のうちにどこの扉からこのコロシアムに通じるか場所覚えておいた方がいいですよ。ここだけ周りより敵が強いから」

「あ、はい。わかりました。気をつけます」


 あかりはぼーっと自動的に返答している。あまりにも予想外のことが起きて頭がついていってなかった。

 

 が――。


「じゃ、俺はそろそろ行くんで、気をつけてください」


 水梨はそそくさと立ち去ろうと扉の方へと向かって行ったが、思い直してドロップアイテムを忘れず拾うためにコロシアムをあちこち寄り道していると、我に返ったあかりが口を開いた。


「あ……待ってください! あなたは誰ですか? ちゃんと助けてくれたお礼をしたいんです! だから名前を教えて――」


 ちらりと水梨はあかりの方へ振り返る。

 だが、質問には答えず一気にダッシュしてコロシアムの出口へと逃げていった。


「あ……行っちゃった……」


ryu:すごい助っ人だった。

XKARKX:あかりは初期アバター男の力に救われました:)


 あかりは謎の救世主が消えた方向をただ見つめ続ける。

 コメント欄も、消えた謎の救世主の話で持ちきりになっている。


 しばらくしてようやく配信のコメントを見る余裕の出たあかりはそのことに気付き、頬を叩いて自分を配信用のテンションに戻す。


「本当に、危ないところだったよ! でも、他のプレイヤーの人に助けてもらえてよかったー本当に。感謝しないとね」


ryu:そうだね、感謝だね

Ma7ON:あかりんが無事でほんっとよかった。あの謎の初期装備男に感謝だわ。あかりんももっと気をつけてダンジョン探索しなきゃダメだゾ


 救世主に言われたようにコロシアムへの転送トラップを調べながら、あかりの頭の中には助けてくれた彼の顔が浮かび続けていた。


(いたんだ。私を助けてくれる人。私にもヒーローが。私が誰かを助けたのと違って、数字にならなくても、人気にならなくても、なんの得にもならなくても助けてくれる人が。私とは違う本当のヒーローが)


 あかりはぐっと拳を握りしめ、見つめ、何かを決意したように呟いた。


「だったら、私も」


 もう一度、あの人に会うために。



 ***************

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る