第12話 接触他プレイヤー:ヒーロー
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LIFE12/100
paripishibai:やばいやばいやばい!
ryu:あかりん逃げて!
悲鳴が流れるコメント欄に気を払う余裕はあかりにはないが、配信と撮影のためのスマホは、淡々と動作を続けていた。
gedouchan:ああああああああ!
ryu:このままじゃライフがなくなる!
このダンジョンでの命の残量――【ライフ】はマックスを100%とした割合で表される。パーセントなのでレベルが低くても高くても最大は100、なのでレベルが高いと減りにくくなる。
その『ダンジョンでの命の残量』が0になった時何が起きるか。
ライフ0になった瞬間、インベントリ内のアイテム(スマホアプリの機能でスマホ内に収納しているアイテムのことである)を失い、強制的にダンジョン外に転送される。
それだけならアイテムをなくすだけのことだが、さらに重大な結果がある。
通常の手順でダンジョンから出る場合、ダンジョン内の怪我は外の世界に影響を及ぼさない。どれだけ怪我をしてもダンジョン外に戻れば、ダンジョンアプリ【エリアN】を使用した時の肉体のままなのだが、ライフ0による強制転送の場合、後遺症が残るのだ。
外傷も内傷も見当たらないのに、体の一部が動かない。全身の倦怠感、激しい頭痛や筋肉痛、聴力や味覚といった感覚を失うなど、様々な後遺症が現われる。
後遺症の重さや期間は様々で、軽ければしばらく調子が悪い程度だが、重い人は一年以上社会復帰できない者もいる。
それがライフ0――ダンジョンで死ぬことの代償だと言われている。
そして現在、多くの配信視聴者が目にしているのは、強力なモンスター達になすすべなく打ちのめされるあかりの姿だ。
このままでは、強制転送と後遺症に苦しむあかりの姿を見ることになるのは確実だと、彼らは悲鳴を上げていた。
「ぅあああああっ! はぁっ……はぁッ……」
グレーターデーモンの放った魔力の砲弾があかりの体をしたたかに打ち据え、コロシアムの土の上を転がっていく。
「ぐっ……」
痛みはダンジョンでは相当抑制されているが、それでも受けたダメージが大きいため、あかりは顔を歪めた。
(痛み0にならないのはダメージを受けたことを感覚でわかるようにっていう配慮なのかもしれないけど、ありがた迷惑ってやつねこれ)
「でも、このままやられっぱなしじゃ! 氷よ!」
あかりは手に持つ剣に氷をまとわせ、グレーターデーモンにもう何度目かわからない攻撃を試みる。
――ギィァッ!
ついにグレーターデーモンがよろける。
(ダメージはなんとか蓄積されている、このまま倒す!)
あかりは痛む体に鞭を打ち、追撃の剣閃を振るう。
その瞬間、あかりの体は激しい衝撃とともに地面にたたき付けられた。
「きゃあぁっ!」
コロシアムにモンスターは何十体もいる。すぐ近くにいるものだけでも何体も。その中の一匹、巨大で筋肉の塊のようなオーガチャンピオンが、金棒であかりを打ち据えたのだ。
(ぐ……く……無理……だ、この数を相手にするなんてとても……このままじゃすぐにライフが0に――え?)
ライフの数値を確認したあかりの表情が固まった。
LIFE -9/100
(LIFE0より下がってる? どういうこと?)
スマホの画面に表示されているマイナスライフは赤く点滅している。そしてありえないマイナスのライフ。
それに気をとられていると――。
「きゃあぁっ!」
再び金棒の一撃を受けてしまう。
LIFE-28/100
さらにマイナスが進むライフ。
「ぅ……あああぁぁあっぁっ!!」
同時に、これまでとは比にならない激痛が、殴られた左腕に走った。
抑制されているとは思えない、本当に腕の骨が折れたかのような、強烈な痛覚が体を駆け抜けたのだ。
(おかしい……何かが……まずい! このままじゃ何かがまずい……!)
あかりの体がガクガクと震える。
痛みと、そして体の内側から広がる得体の知れない寒気によって。
ライフのマイナスが大きくなるのに比例して、強くなる痛み。体の芯がどんどん冷たくなっていく感覚。
そのことに気付いた時、あかりの身の毛がよだった。
(何かはわからないけど絶対に取り返しのつかない悪いことが起きる――このままじゃ――私は――)
ryu:あかりんが震えてる!ライフもバグって表示が消えちゃってるし、どうすればいいのこれ!
baribarisan:もう無理だよ逃げてあかりん!
MA7ON:でもこんな囲まれてたらどうすりゃいいんだ・・・
彼らからはマイナスのライフは見えていないが、それを見るまでもなくコメントも絶望的な空気になっている。
そしてついに、苦痛と負傷でまともに動くことができないあかりに対し、グレーターデーモンが鋭い爪を伸ばし心臓を狙い胸に突き刺す――。
(これで終わりだ……。周りは歯が立たないモンスターだらけ。私はボロボロ。……私のピンチに駆けつけてくれるヒーローはいないよね、やっぱり――)
あかりが諦めて小さく呟いたその瞬間、
思考が停止する。
自分がモンスターに胸を貫かれるはずだったのに、モンスターの胸が貫かれている?
何が起きたのかわからないでいるあかりに、今度はオーガチャンピオンが金棒を振り下ろす。
そしてついにあかりにも何が起きたかわかった。
「いたんだ――」
一人の青年が、あかりに振るわれた金棒を片手で受け止めていた。
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