第5話 地下空間の新種

「なんだ? 黄色くて光ってぶよぶよして……スライムか!」


 発光していたのは、ハンドバックくらいの大きさの黄色い軟体生物。

 ぷるぷるぶよぶよしながら光を放っていて、闇の中でそこだけ明るい。


「新種のモンスターだな、来て良かった」


 長い階段を降りたのに何もいなかったらガッカリさせられるところだった。

 それじゃ、稼がせてもらおうか。


 俺はすり足でまずは慎重に黄色スライムへと近づいて行く。

 するとスライムは体を細く捻り始めた。


 ――何をするつもりだ?


 足を止めて警戒する。

 スライムはこちらに捻った先端を向ける。


 その瞬間、俺は体に激しい衝撃と痺れを感じた。

 暗闇を裂き、スライムから俺に向けて電撃が放たれたのだ。


「ぐっ!? 電気だって!?」


 さすがに電撃は速すぎて身構えていてもかわせず、まともに食らってしまう。

 打撃や斬撃とはまた違うダメージを感じ、さらに体が痺れ、反撃に転じようとしても拳をうまく握ることすらできない。


「電気とはね。道理で発光してるわけだ………………でも、よし!」


 十秒ほどで痺れはとれ、俺は今度は全力ダッシュで電撃スライムに近付く。

 この程度なら布団を取り入れる時の静電気くらいだ……は、ちょっと言いすぎだが、ダメージ自体は大きくはない。痺れさえなければ反撃に差し支えはない!


 電撃スライムは再び電撃をチャージしようと、発射とともにほどけた体をもう一度捻っている。

 だが二発目を撃つよりも俺が間合いに入る方が速かった。捻れてる途中の電撃スライムの中に、俺は手刀で勢いよく突きいれる。

 反発する手応えを感じたがそのまま力を込めて突きとおすと、弾力ある外皮を突き破り、液状のスライムの体内を貫いた。


 バリバリッと音を立てて、電撃スライムは光の粒になった。

 後には黄色いガラスのような素材でできたコイルが残されるのみとなり。


「よし撃破! それにドロップアイテムも出てラッキー……まあ、消えるんだけど」


 スマホを向けてチェックすると、イエローガラスコイルという名前の素材らしい。

 まんますぎないか。


 イエローガラスコイルを手に取ると、いつものように光の粒になって消えていく。


 同時にスマホの通知音が鳴った。

 見ると【暗視 ↑LV1】と表示されている。


 お、レベルアップきたか。暗視なんていうスキルもあるんだな。

 スキルレベル0のうちはスキルがあることすらわからないけど、やはり色々なスキルがある。


「しかし、暗闇で光るスライムを倒したら暗視スキルのレベルが上がった、というのは偶然にしてはできすぎてる気がするな」


 もしや倒した敵とか経験値に変わったアイテムによって、どのスキルに経験値が入るか(あるいは多めに入るか)が決まるのか?


「だとしたら、欲しいスキルにあったモンスターで稼ぐことも視野に入れるべきだな。今はまだ全体的に強くなりたい時期だから目につくモンスター全倒しでいいけど」


 ここのモンスターは安全に・・・倒せるということが証明されたことだし、俺は地下を進んでいく。


 【暗視】スキルを得たおかげで、ぼんやりとだが先が見えるようになった。

 とはいえ10mもない視界だが、自分の足元すら見えない暗闇に比べれば大違いだ。周囲を見ながら歩いて行く。


「ん、また光が」


 俺の左斜め前方でぽうっと光が灯った。

 二匹目の電撃スライムだ。


「どうやらこの地下はこいつらの巣になってるみたいだな。レベルが上がったってことは経験値も多いみたいだし、次の狩り場にさせてもらおう」


 俺は二匹目のスライムにダッシュで攻撃をしにいく。

 こいつにたいしてはじっくり行ってはいけないともうわかった。電撃を溜めてる間に攻撃をして倒すのが最善。


 しかし一発はそれでも電撃を食らってしまった。

 まだ素早さが足りないようだ。

 もっとレベルを上げなければ。


 とはいえ電撃の痺れはすぐに取れるから大丈夫だが。上でしっかり稼いで【自然治癒Lv2】のスキルを得たのが効いてるな。


【自然治癒】の効果は『体力や怪我の回復や、毒をはじめとした状態異常の回復が早まる』だから『麻痺』という状態の治癒が早まってすぐに痺れから復帰できた。


「そう考えると【初期アバター】役に立ってるんだな。経験値が普通より多く手に入るおかげで、【自然治癒】のレベルが2に上げられたんだし。悪いことばかりじゃない。……お、3匹目」


 再びスライムを見つけて、同じようにして狩る。

 倒せるが地上の敵よりは強い感触だから、経験値も期待できる。


 そうやってスライムを倒しつつ地下空間を奥へと進んで行った。

 すると……。


「あれは!」


 暗闇の中にぼんやりと、ゴツゴツした上半身のようなシルエットが浮かび上がる。


「鎧だ! 装備品を見つけたのは初めてだな。この隠された地下を見つけた報酬ってとこかな」


 ダンジョンには宝がつきものだ。見つけにくい場所ならなおさら。この鎧はまさにそれだ。

 早足で近付いて見ると、西洋の甲冑みたいな鎧がそこにあった。黄色い稲光のような模様が描かれていて、いかにも雷耐性なんかがありそうだ。


「…………」


 俺はその鎧に手を伸ばし、両手で掴んだ――瞬間、鎧はこれまでモンスターがドロップしたアイテムと同様、虚空に消え失せてしまった。


「ああ。やっぱりこれもダメか。普通なら普段着にしか見えないシャツを卒業してプレイヤーらしい鎧姿になれるところだったのにな。やれやれ」


 装備品はドロップアイテムとは違う可能性もゼロではないと思ったけど、そんな都合のいい話はないようだ。結局のところ、俺は鎧やマント、剣や槍、そんなしっかり冒険者してる装備はできない、それは確定した。


【アーマー ↑Lv4】。


「鎧の代わりに防御スキルのレベルは上がりはしてるけど、とんでもない呪いだよ本当」


 だが呪いと付き合っていくしかない。

 済んだことに文句を言ってもしかたないし、あるものでなんとかする方が建設的だ。


「……ま~~お」


 とその時、突然こんな暗闇のダンジョンに似つかわしくない鳴き声が聞こえた。

 この声は。


「ねこ?」

「ま?」


 さっきまで鎧があった場所に、猫がちょこんと座って俺を見上げていた。

 どうやら鎧の裏に隠れていたようだ。


 そのグレーの長毛の猫は、俺を見ても逃げないどころか、足元に近寄ってくる。

 もしかして、出口がわからなくて困ってる?

 いくら猫が夜目も鼻もきくといっても、真っ暗すぎるか。それにモンスターもいて危険だし。地下に入ったはいいが、出られなくなったってところか。


「地上に連れて行って欲しそうだけど、俺も探索したいしな。それにあの階段……」


 めちゃくちゃ長い階段を往復すると思うと目眩がしそうだ。しかし……。


「ま~~お」


 純粋なふてぶてしい目で俺を見つめる猫を置いていけるだろうか。いや、ない。

 しかたないか、モンスターもいるし。よく見ると毛が静電気みたいにちょっと逆立ってるし、電撃の影響を受けているかもしれないし。


「こっちが出口だよ、ついておいで~、猫ちゃん」


 俺が階段の方へ歩くと、猫もついて歩いてきた。どうやら意思は通じているようだ。

 そして階段まで来て……長いな、一番上が見えない。

 しかし行くしかないと意を決して登り始めたのだが、猫は3段ほど上ったところで足を止め、こっちを見て「ま~~お」と鳴いてきた。


 ……まさか運べと?


「ま~~お」


 ためしに手を伸ばしてみると、すぽんと俺の腕の中に収まってきた。そのまま登るよう目線で促してくる。

 この猫ちゃん、殿様気取りか。


「承知しましたよお猫様。熟練度稼ぎになると思って、抱っこしてあげるか」


 俺は猫を抱えて階段を登っていった。

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